2017年3月12日日曜日

オリジン 23

「この辺りにカメラマンが居たはずなのですが、痕跡はありませんね。」

 ダリルは東屋から少し離れた植え込みを探りながら呟いた。 そばの通路に立っているラナ・ゴーン副長官は周囲を見回した。

「そんな所に隠れても、貴方かパーカー、どちらかが気が付きませんか? 東屋から近いでしょう?」

 2人のその日のデートはパパラッチが隠れていた場所の探索だった。勿論夜だから、庭園は明るいとは言えないし、地面は人工の土で足跡が残っているはずもない。しかしダリルはパパラッチが姿を隠しつつ東屋を撮影出来るポイントを絞り込んだ。ラナ・ゴーンは距離が近いので標的の人間に気づかれるはずだと言って、彼の意見を退けた。

「パパラッチはどこにでも現れるんですよ。食堂でも遊戯施設でも図書館でも・・・ジムにだっていました。でも、誰も気が付かない。不思議だと思いませんか?」
「そうかしら?」

 ラナ・ゴーンがクスッと笑った。

「パパラッチは人間とは限りませんよ、ダリル。」
「え?」

 ダリルは彼女を振り返った。

「どう言うことです?」
「カメラを内蔵しているロボットかも知れないと言うことです。」
「ロボット?」
「いらっしゃい。」

 彼女に導かれてダリルはパブの近くまで歩いた。途中で数人の執政官やドーマーとすれ違ったが、今ではダリルとラナ・ゴーンの仲は公然の秘密となっており、誰もが見ないふりをした。 それに2人はただ話をしながら歩いているだけで、他人から揶揄されるようなことは一切していない。
 パブの建物が見えてきた頃、彼女が彼の手を引いて足を止めさせた。そっと指さした方向を見ると、子犬の様な大きさのロボットが移動して行くのが見えた。ドームの至る所を四六時中徘徊している屋外掃除ロボットだ。

「あれにカメラが内蔵されているなんて知りませんでした。」
「あれは低い位置しか撮影出来ませんが、高所掃除用のロボットなら、人の高さで撮影出来るでしょう。施設の汚れ具合や損壊箇所を撮影して維持班本部に電送しているのです。ロボットだけでは対処出来ない損害部分の探索をしているのですよ。」
「それでは、パパラッチは・・・」

 ダリルは声を落とした。

「維持班の人間ですか?」
「少なくとも、掃除ロボットの画像を扱える人物でしょうね。維持班だけでなく保安課も見ることが出来ますよ。」
「容疑者多数ってことですか・・・」

 ダリルは溜息をついた。

「しかし、貴女はよく気が付きましたね。」
「私ではありません。クロエルですよ。」
「彼が?」
「ある時、掃除ロボットに躓いて転びかけたのですって。その時に近くで口論しているドーマー達が居たのですが、その画像が夕方にパパラッチサイトにアップされていたので、もしやと思ったそうです。アパートに来たロボットを捕まえて観察したらカメラがあったって・・・」
「なかなか鋭いですね、クロエルは。」

 ダリルは思わず笑ってしまった。そう言えば最近クロエル・ドーマーの画像を例のサイトで見かけなくなった。

「この話、言いふらすべきでしょうか?」
「どうかしら? あのサイトは少し迷惑なところはありますが、誰かを傷つけたことはないでしょう? 見られていると思ったら、あまり他人に迷惑な行動も取れませんから、みんながお行儀良くする理由にもなりますよ。」
「ああ・・・だから貴女は私の誘いに乗ってこないんだ。」

 ダリルはラナ・ゴーンに手をつねられて「いてて」と声を上げた。