ダリル・セイヤーズ・ドーマーは決してナルシストではない。しかし、生まれて初めて髪を染めたので、何度も鏡を見返し、髪を手で撫でつけ、似合っているだろうかと心配した。色は産毛が不自然に見えない様に明るいブラウンだ。眉も同じ色に染めた。
「ブロンドの時よりキリッとして若返って見えますよ。」
クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが元気づけるつもりで言った。
「それはつまり、地色が老けて見えると言うことだろ?」
と余計なことを言ったのはジェリー・パーカーだ。ダリルはポール・レイン・ドーマーが何も感想を言わずに任務の為に出かけてしまったことが気になった。ポールは再び剃髪して見事な坊主頭に戻ると、さっさとジョン・ケリー・ドーマーをお供に第4チームが早朝に出かけた西海岸に旅立ってしまった。理髪ルームで並んで髪の処理をしてもらったので、ポールは恋人の髪が染まっていくのを見ていたはずだ。せめて似合う似合わないを言って欲しかったな、とダリルは大人げない不満を感じていた。あるいは、ダリルが寝坊した結果、局長に叱られたことを恨んでいるのか。
「似合ってるからいいじゃない。」
とキャリー・ワグナー・ドーマーが慰めてくれた。
「ラナも気に入るわよ、きっと。」
「彼女は私の外見など気にしない人だ。それより、アキは遅くないか?」
彼等はゲートの前に居た。ダリルはいつものスーツ姿だ。ジェリーもドームに収容されて以来初めてスーツを着せてもらった。遺伝子管理局のダークスーツではなく、明るい格子柄のカジュアルスーツだ。仕事仲間の執政官メイがネクタイを結んでくれた。ジェリーはタイなど要らないと言ったのだが、彼女は男性のタイを結んでみたかったのだと言った。キャリーとJJがクスクス笑っている。メイはきっとジェリーに関心があるのだろう。しかしジェリーは年齢的にも現在の境遇においても異性と暮らすことを諦めていた。メイはコロニー人と言う立場故に彼女の方から彼に告白が出来ない。研究所の女性達は彼女の背中を押し続けて応援しているのだが、ジェリーはそちらの方には疎い様だ。女性が出す信号に気が付かない。
クラウスが保安課本部の建物から出てくる長身の男に気が付いた。
「おっ、アキがおめかしして出て来たぞ。」
保安要員のアキ・サルバトーレ・ドーマーがいつもの繋ぎの制服ではなく珍しいスーツ姿でやって来た。保安課はスーツでも戦える様に訓練をするが、実際に着用することは滅多にない。その生涯にドームの外に出ることはないし、正装する必要がある要人警護に充のはごく一部の課員だ。だから、アキは着慣れないスーツにかなり緊張しているらしく、動きがぎくしゃくして見えた。それを見て、ジェリーが不安気に呟いた。
「あいつ、外に出して大丈夫かなぁ?」
「抗原注射も初めてなのよね?」
メイも心配そうだ。執政官はドーマーが外に出ると何時も何かしら心配するのだ、とダリルは心密かに思った。地球人が地球上を歩き回るのがそんなに危険だろうか。アキのジャケットの下にはホルスターで吊した麻痺光線銃が装備されている。戦闘能力ではアキはドームでも1,2を争う猛者だ。
ジェリー・パーカーはドームの外に出る許可を得た。名目は、育ての親であるサタジット・ラムジーの墓参りだ。彼はドームの外では「逮捕されたメーカー」であり、「囚人」だ。だから墓参りには監視役が付く。遺伝子管理局のダリル・セイヤーズ・ドーマーと保安課のアキ・サルバトーレ・ドーマーだ。ダリルは外の世界と言えば過去から現在までの全てのドーマーより経験豊かだ。アキは生まれて初めて外に出る。
アキの上司、ゴメス少佐は地球に来て3年しかたっていないが、部下は我が子の様に大切だ。だからケンウッド長官がジェリー・パーカーの外出を許可し、ジェリーの護衛に遺伝子管理局と保安課から1名ずつ出すようにと言った時、困惑した。ドームの精鋭部隊は、ドームから出たことがない「箱入り息子」ばかりだったからだ。人選に迷ったが、日頃からジェリーの監視をしていたアキが名乗り出た。外出と言っても日帰り、もしくは2日だけのものだ。ジェリーの行動パターンを知っている彼が適任だとゴメスも思った。
しかし、この人選を長官に告げると、驚くようなことを長官から聞かされた。ゴメスは保安課から人を出したくないと思ったのだが、ハイネ遺伝子管理局長がいたので、口をつぐんだ。ハイネはコロニー人に逆らわないが、機嫌を損ねるとかなり厄介な人物でもある。ジェリーの外出はハイネの案なのだった。
「ブロンドの時よりキリッとして若返って見えますよ。」
クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが元気づけるつもりで言った。
「それはつまり、地色が老けて見えると言うことだろ?」
と余計なことを言ったのはジェリー・パーカーだ。ダリルはポール・レイン・ドーマーが何も感想を言わずに任務の為に出かけてしまったことが気になった。ポールは再び剃髪して見事な坊主頭に戻ると、さっさとジョン・ケリー・ドーマーをお供に第4チームが早朝に出かけた西海岸に旅立ってしまった。理髪ルームで並んで髪の処理をしてもらったので、ポールは恋人の髪が染まっていくのを見ていたはずだ。せめて似合う似合わないを言って欲しかったな、とダリルは大人げない不満を感じていた。あるいは、ダリルが寝坊した結果、局長に叱られたことを恨んでいるのか。
「似合ってるからいいじゃない。」
とキャリー・ワグナー・ドーマーが慰めてくれた。
「ラナも気に入るわよ、きっと。」
「彼女は私の外見など気にしない人だ。それより、アキは遅くないか?」
彼等はゲートの前に居た。ダリルはいつものスーツ姿だ。ジェリーもドームに収容されて以来初めてスーツを着せてもらった。遺伝子管理局のダークスーツではなく、明るい格子柄のカジュアルスーツだ。仕事仲間の執政官メイがネクタイを結んでくれた。ジェリーはタイなど要らないと言ったのだが、彼女は男性のタイを結んでみたかったのだと言った。キャリーとJJがクスクス笑っている。メイはきっとジェリーに関心があるのだろう。しかしジェリーは年齢的にも現在の境遇においても異性と暮らすことを諦めていた。メイはコロニー人と言う立場故に彼女の方から彼に告白が出来ない。研究所の女性達は彼女の背中を押し続けて応援しているのだが、ジェリーはそちらの方には疎い様だ。女性が出す信号に気が付かない。
クラウスが保安課本部の建物から出てくる長身の男に気が付いた。
「おっ、アキがおめかしして出て来たぞ。」
保安要員のアキ・サルバトーレ・ドーマーがいつもの繋ぎの制服ではなく珍しいスーツ姿でやって来た。保安課はスーツでも戦える様に訓練をするが、実際に着用することは滅多にない。その生涯にドームの外に出ることはないし、正装する必要がある要人警護に充のはごく一部の課員だ。だから、アキは着慣れないスーツにかなり緊張しているらしく、動きがぎくしゃくして見えた。それを見て、ジェリーが不安気に呟いた。
「あいつ、外に出して大丈夫かなぁ?」
「抗原注射も初めてなのよね?」
メイも心配そうだ。執政官はドーマーが外に出ると何時も何かしら心配するのだ、とダリルは心密かに思った。地球人が地球上を歩き回るのがそんなに危険だろうか。アキのジャケットの下にはホルスターで吊した麻痺光線銃が装備されている。戦闘能力ではアキはドームでも1,2を争う猛者だ。
ジェリー・パーカーはドームの外に出る許可を得た。名目は、育ての親であるサタジット・ラムジーの墓参りだ。彼はドームの外では「逮捕されたメーカー」であり、「囚人」だ。だから墓参りには監視役が付く。遺伝子管理局のダリル・セイヤーズ・ドーマーと保安課のアキ・サルバトーレ・ドーマーだ。ダリルは外の世界と言えば過去から現在までの全てのドーマーより経験豊かだ。アキは生まれて初めて外に出る。
アキの上司、ゴメス少佐は地球に来て3年しかたっていないが、部下は我が子の様に大切だ。だからケンウッド長官がジェリー・パーカーの外出を許可し、ジェリーの護衛に遺伝子管理局と保安課から1名ずつ出すようにと言った時、困惑した。ドームの精鋭部隊は、ドームから出たことがない「箱入り息子」ばかりだったからだ。人選に迷ったが、日頃からジェリーの監視をしていたアキが名乗り出た。外出と言っても日帰り、もしくは2日だけのものだ。ジェリーの行動パターンを知っている彼が適任だとゴメスも思った。
しかし、この人選を長官に告げると、驚くようなことを長官から聞かされた。ゴメスは保安課から人を出したくないと思ったのだが、ハイネ遺伝子管理局長がいたので、口をつぐんだ。ハイネはコロニー人に逆らわないが、機嫌を損ねるとかなり厄介な人物でもある。ジェリーの外出はハイネの案なのだった。