2017年3月19日日曜日

オリジン 30

 ケンウッド長官はハイネ遺伝子管理局長から直接話を聞かされた時、熱が出るんじゃないかと心配した。それくらいショックだった。ハイネはこう言ったのだ。

「脳内麻薬を製造したり、若返り目的にクローンに脳移植したり、ドームからコロニー人を追い出してクローン技術を奪い、地球の支配権を独占しようと企む連中を炙り出す為に、ダリル・セイヤーズ・ドーマーとジェリー・パーカーを外で捜査活動させる許可を戴きたい。」
「その・・・」

 ケンウッドは目眩を覚えながら繰り返した。

「脳内麻薬を製造したり、若返り目的にクローンに脳移植したり、ドームからコロニー人を追い出してクローン技術を奪い、地球の支配権を独占しようと企む連中とは、実在するのかね?」
「これまでは、個々のグループが活動していた様に思われましたが、連邦捜査局が逮捕した連中を取り調べるうちに、黒幕が同一人物である可能性が浮かび上がって来たそうです。」
「何者だ? 私が知っている地球人は少ないので、聞いてもわからないかも知れないが・・・」
「セント・アイブス・メディカル・カレッジの医学部長ミナ・アン・ダウン教授です。彼女は多くの医師を育てました。この国の医学の最高権威の1人です。彼女が教え子達に吹聴しているのです、地球の医療科学力はドームのそれに劣らないと。ドームがなくても子供は安全に産むことが出来る、ドームは最早必要ない組織である、コロニー人が地球に居る必要もない、と。」
「馬鹿な・・・」

 ケンウッドは怒りを覚えた。

「確かに地球人だけでも医療科学は発展させることは出来るだろう。しかし、ドームは必要だ。まだコロニー人の卵子がなければ、子供は産まれないのだ。地球人はそれを知らない。」
「今それを公表すれば世界中がパニックになるだけです。」
「では、どうすれば・・・」
「まず、ダウン教授を排除しなければなりません。出来るだけ自然に。」
「自然に?」
「彼女を犯罪者として逮捕し、社会的信用を失墜させ、教え子達に彼女の愚かさを悟らせるのです。」
「それと、セイヤーズとパーカーを外に出すことがどう繋がるのだ?」
「彼等を囮に使います。」
「囮?」

 ケンウッドは困惑した。

「君は自分が何を言っているのか、わかっているのか、ハイネ? セイヤーズもパーカーも地球の未来がかかっている新しい人類の父親だぞ!」
「彼等は子孫の為に、この仕事を承諾しましたよ。」

 100歳を越える老ドーマーはほんの一瞬冷酷な表情を浮かべた。

「彼等は既に多くの子孫をこのドームの地下に残していますから、子供達の為に危険を排除したいのです。自身を危険に晒すことがあろうともね。」
「ハイネ・・・」
「全ての責任は私が負います。もう老い先短い身ですから、どんな責めを負っても恐くはありません。長官、貴方はただ目を瞑っていて下さい。地球人が地球の為に勝手にやることですから。」