2017年3月1日水曜日

オリジン 9

 ジェリー・パーカーが午後の仕事に戻った後、ライサンダーは1人で図書館に行った。またケンウッド長官に会えるかと期待したが、長官は来ていなかったので、待っても無駄だろうと思い、ジムへ行った。
 昼下がりのジムは閑散としていた。多くのドーマーは仕事中だったし、夜間勤務の者はまだ寝ているか、起きがけで運動をする気は起こらないのだろう。
 ライサンダーは1人で筋トレをしてからスカッシュの競技場へ行った。そこで出遭った白髪の美しいハンサムな年配のドーマーに声を掛け、スカッシュのプレイを教えてもらうことに成功した。白髪の男性はライサンダーよりずっと年上に違いなかったが、年齢の見当がつかなかった。彼は丁寧にルールやプレイのコツを教えてくれた。
 ライサンダーは彼の名前を訊こうとしたが、相手は1ゲームだけ手合わせしてくれただけで、そろそろ仕事の時間だからと引き揚げて行った。
 ライサンダーは1人で練習をして、ロッカールームでシャワーを浴びて着替えた。
次は何をしようかと考えているところへ、端末にメールが着信した。見るとクロエル・ドーマーからだった。

ーー今夜暇か?

 ライサンダーは考えた。親達は夕食の予定時間を告げたが、「必ず来い」とは言わなかった。彼は返信した。

ーー暇
ーー午後6時に噴水広場

 噴水がある場所を思い出し、彼は返信した。

ーーOK

 メール交換はそこで終了した。
 6時までまだ3時間近くあった。どこかで昼寝しようと考えたが、良い場所を思いつかなかったので、アパートに帰った。
 ソファに横になってから、親に連絡を入れることにした。こんな場合は迷わずダリルに告げる。

ーークロエルさんからお誘いがあったので、夕食は彼と一緒になると思う。

 ダリルはオフィスでの仕事が終わってポールが書類を片付けるのを待っていた。そこに息子からメールが来たので、さっと目を通した。彼は恋人に言った。

「ライサンダーが中米班に攫われたぞ。」
「なに?」

 ポールが最後の書類から顔を上げた。

「クロエルの一味だな?」
「うん。金曜日の馬鹿騒ぎにうちの子を引っ張り込むらしい。」
「危険はないが、変なことを教えたりしないだろうな。」

 ポールはライサンダーが奇妙な服装や奇抜な髪型にしたりしないかと心配した。中米班は毎週末にお祭りみたいに騒ぐのが習慣になっている。これはクロエル・ドーマーが始めた訳ではなく、昔からの伝統だ。出張していない居残り組でコロニー人が多く利用するパブを占拠して大騒ぎするのだ。恐らく、ライサンダーは普通に食事に誘われた程度にしか思っていないはずだ。

「あの子は今辛い時期にいるから、いっそ大騒ぎして憂さ晴らしをすれば良い。」

とダリルはクロエルの心遣いに感謝した。