2016年8月22日月曜日

4X’s 17

 ダリルは階段を上った。上がりきって右手にリクリエーションスペースらしい広い場所があり、ライサンダーは端の壁にもたれかかっていた。ソファやテーブルがひっくり返ったり、押し集められたりして、その向こうのカウンターの後ろに少女がいた。右や左へ行ったり来たりしていた。

「何をしているんだ?」

ダリルが尋ねると、ライサンダーは彼女を見ながら答えた。

「彼女は場所をかえるべきか否か、思案中なんだ。ここは広くて身を隠す場所がない。向こうにあるシャワールームは水が出るんだけど、狭くて戦えない。彼女は困っている。」

ダリルは息子の横顔を見た。

「おまえはいつから女性の心理を読めるようになったんだ?」
「なんとなく、分かるような気がするんだ。父さんが倒れている間、ずっと彼女を観察していたから。」

ライサンダーは父親を振り返り、ダリルのベルト下を見た。

「大丈夫?」

 ダリルは、ああ、とだけ答え、我が身の災難の話題を終わらせた。
 少女は相手が2人になったことを心配していない様子だ。ダリルから奪った拳銃はまだ所持していたが、それでライサンダーに攻撃したり威嚇したりはしていない。

「私たちが攻撃しないので、敵か味方か判断しかねているんだ。」
「攻撃しようがないよ、怪我をさせちゃいけないんだろ?」

もうすぐ日没だ。廃屋の夜は気持ちの良いものではないし、砂漠の夜間は冷え込む。
ダリルは車内に水と携行食を積んできたが、野宿はしたくなかった。

「私達のことを説明したのか?」
「うん、私立探偵みたいなものだって言った。メーカーから彼女を保護するために探しに来たんだって。でも、彼女は何も答えないんだ。聞こえていないのかな? こっちが名乗っても、彼女は無視なんだ。」

 彼女は喋らない。声すら発さない。
まさか、発声機能が退化しているのか?
 ダリルはライサンダーに車から水と食糧を取ってくるように言いつけた。ライサンダーは素直に外へ出て行った。
 少女は窓の外を眺め、ダリルを見て、また右に左に歩いた。

「せめて、君の名前がわかればなぁ。」

とダリルは話しかけた。