2016年8月14日日曜日

4X’s 1  

「父さん、誰か来るよ。」

 ライサンダーがそう声をかけた時、訪問者の自動車はすぐ近くまで来ていた。ダリルは息子に「屋内に入っていろ」と言いかけて止めた。
間に合わない。車内の人間には二人の姿がはっきり見えているはずだ。多分、ライサンダーの緑色に輝く美しい黒髪も。
ダリルは手に付いた泥を払いながら立ち上がった。自動車のナンバーは東海岸のものだ。
遂にあの連中が来たか、と彼が諦めの溜息をついた時、自動車は土埃の中で停車した。
ドアが開き、スキンヘッドの男が一人、今朝はピカピカに磨き上げられたであろう黒い革靴を埃まみれにしながら畑の縁に降り立った。スーツの上着を車内に脱ぎ置き、シャツの袖は肘まで捲り上げ、白い腕を露わにして、男は黒いサングラスを手に取った。

「やあ、ダリル、久し振りだな。元気そうだね。」

親しげに笑いかける男の顔を見て、ダリルは驚いた。

「君か、ポール。驚いたな、まるでトニー小父さんみたいだ。」

かつての仕事仲間の出現に用心して、ダリルは訪問者に近づいた。
ポールは腕を伸ばし、彼と握手して、次に抱き合った。互いに相手の背中をたたき合った。

「相変わらず、いい体してるなぁ、鍛えているのか?」

ダリルはポールの引き締まった筋肉の感触に、かつての胸のときめきを思い出し、相手に気づかれないように用心深く身を離した。お互いの顔が直ぐ目の前にある。

「まだあそこで働いているのか?」
「そうだ、俺にはあそこしかない。君のように外へ出る勇気はない臆病者だから。」

ダリルはポールのすべすべした肌を見つめた。とても同じ年齢には見えない。
勿論、彼にはわかっていた。あそこに残っていれば、彼も若くいられたのだ。

 だが、それはこの星の住人には不自然なことだ・・・

ポールがライサンダーを振り返った。

「子供か?」

ダリルは覚悟を決めた。ポールの目は誤魔化せない。真実を明かした方が安全なはずだ。

「ここは日差しが強いから、中で話そう。ライサンダー、すまないが後をやっておいてくれないか。」

息子は一人で耕すはめになったは畑を哀しそうに眺めた。

「終わったら釣りに行ってもいいかな、父さん?」

機嫌はとっておいた方が良い。ダリルは「いいとも」と許可を与えた。
畑は小さいし、川へ釣りに行ってくれた方が、話を聞かれなくて済む。
石造りの家に向かいながら、ポールが尋ねた。

「俺を息子に紹介しないのか? 息子の紹介もなかったな。」
「来客には慣れていないんだ。」

ダリルは言い訳した。

「礼儀作法はなにも教えてないんだよ。」

ポールは入り口に続く石段の中途で足を止め、畑を振り返った。
小型トラクターで土を掘り返すライサンダーが見えた。
帽子からはみ出した髪がキラキラと淡い緑の光沢を放っている。