2016年8月27日土曜日

4X’s 25

 ライサンダーは少し混乱していた。生まれてからずっと父親と男2人きりの生活だった山の一軒家に突然若い女性が加わったのだ。 JJと呼ばれる彼女は、筆談でしか会話をしなかった。 コミュニケーションに時間がかかってまどろっこしい上に、彼女の生活習慣はライサンダーには初めてのことばかりだ。初日に彼女が使用中のバスルームにうっかり入ってしまい、父親に引きずり出された。
 夜は、彼の寝室が彼女に占拠され、父親の部屋で寝るはめになった。

「なんでこの歳で親のベッドで一緒に寝なきゃいけない訳?」
「彼女と同じベッドで寝るには早すぎるからだ。」

 ダリルは息子にベッドを譲って自分が床や長椅子で寝るなんて考えなかった。彼の部屋の居候は息子なのだから、息子が自分で寝床を確保するべきだ。
しかし、ライサンダーは彼のベッドに入ってきて、半分を使った。 大人しく・・・と言いたかったが、寝相が良いとは言えない。
ダリルはJJを早くドームに引き渡そう、と思った。さもないと、寝る度に痣だらけになる。それに、ラムゼイと出遭ってしまったのだ、あのメーカーの老人は、きっと彼の現住所を探すだろう。近いうちに引っ越しも考えておかねばならない。

 JJは家事の経験がなかった。それでもセイヤーズ家の手伝いをすべきだとけなげにも行動した。結果は、父子の仕事を増やしただけだった。
 ライサンダーは割れた皿の後始末や、洗剤と間違われて洗濯機に放り込まれた砂を掃除するのに一日を費やした。
ダリルは畑の世話よりも彼女が野菜の芽を踏まないように見張らねばならなかった。
2日目の夜、夕食が終わって、やっとくつろぐ時間を得たダリルに、JJが紙に書いたものを見せた。
 ライサンダーは、ダリルが紙を見て黙り込んだのを不審に思い、紙面を覗き見した。
綺麗な模様が描かれていた。

「綺麗な絵だけど、何かの模様なの?」

すると、ダリルが答えてくれた。

「これは、塩基配列だ。」

怪訝な表情のライサンダーを無視して、JJがもう一枚の紙を出した。そこにも塩基配列が描かれていた。彼女は1枚目の絵を指して、次に2枚目の絵を指した。また1枚目の絵の違う部分を指し、2枚目の別の箇所を指した。同じことを4回繰り返した。

「それは、つまり・・・」

 ダリルは、彼女が言いたいことを頭の中で整理した。
信じられないが、そう言うことなのか?

「だから、何?」

ライサンダーがじれて説明を求めた。

「塩基配列が何かってことは知ってるよ。これがどうかしたの?」