2016年8月14日日曜日

4X’s 3

「俺は君を告発しに来た訳ではない。息子の件は俺しか知らない。
君が仕事をしてくれるなら、目をつぶる。息子が婚姻する折にはデータを改竄して守ってやってもいい。兎に角、今は仕事をして欲しい。
困っているんだ。」
 ダリルはポールの膝に手を置いた。いつ見てもこの男は彼を夢中にさせてしまう。
18年たっても彼は忘れられないのに、この男は仕事の話しかしない。
「わかった、話を聞こう。」
とダリルは言った。

 地球は疲弊していた。環境ホルモンが水と大気を汚染して、多くの生物が生殖能力を失った。人類の一部は宇宙空間に建設したコロニーに逃れ、地上に残された人類は絶滅の危機を目前にした。
 勿論、コロニーは地球を見捨てなかった。彼らは同胞と母星を救おうと、精一杯努力した。持てる科学力を総動員して、水と大気の浄化を試みた。
地球は死滅を免れたが、人類の絶滅の危機が去った訳ではなかった。
 地球上では女性が生まれなくなっていた。新生児は全て男子だった。コロニーの女性が地上に降りて出産しても男子しか生まれなかった。

 地球は女性の誕生を拒否している。

 コロニーの人類は自分たちの女性が地球に下りることを禁止した。地球は男だけの世界になるのか? 
 それは拙い。
 苦肉の策として、コロニー人は地球に安全地帯「ドーム」を建設した。
限定された、浄化された水と大地の世界で、人類の子孫の製造を始めたのだ。
まず、コロニーの女性から卵子を提供してもらい、健康な男性の精子を受精させて女児をつくる。その胎児から複数のクローンを作り、成長させる。
 最初の女性たちは、地上で社会的に成功した男性たちの妻として地球で暮らした。
彼女たちが妊娠すると、ドームに収容され、出産する。
生まれてくるのは男子だけなので、ドームではその一部を、次のクローン世代の女児とすり替えて親に返す。
女の子とすり替えられた男児たちは孤児院に収容され、結婚相手はいないが子供が欲しい男たちの元へ養子に出された。 結婚出来る男、養子をもらえる男、彼らはコロニー人から厳しい審査を受け、合格した特権階級だった。
そして、この「すり替え」は、地球人には内緒だった。女性が誕生しなくなっている事実そのものが、地球人には知らされていなかったのだ。

地上の人々は、ドーム内に住んでいる人間を「ドーム人」と呼び、コロニー人と彼らに雇われた地球人だと思っていた。だが・・・


  養子に出されず、ドームに残された男児もいた。遺伝子的に優秀で、コロニー人が次世代の地球人誕生の為にストックした子供たちだ。
彼らは成長すると、ドームのコロニー人たちを補佐する仕事を与えられた。
実の親を知らず、コロニー人に養育された彼らは、コロニー人から「ドーマー」と呼ばれた。
 ドーマーは大まかに2つのグループに分けられた。
ドームの機能を維持するドーム機能維持班。彼らは技能的な分野で優秀な才能を発揮出来る遺伝子を持っていた。保安課や医療班、建築班など、専門分野に長けているドーマーたちだ。
もう一つは、遺伝子管理局。地球人の子孫を残す為のコロニー人の活動を直接手伝う仕事で、ドームの外で違法なクローン技術で子孫を作る「メーカー」と呼ばれる業者を取り締まる役目をしていた。
 ダリルとポールは、遺伝子管理局で仕事をするドーマーだったのだ。