2016年8月25日木曜日

4X’s 22

 訪問者たちが駐車場に入ってきた時、ダリルは既に建物から出て暗がりの中に立っていた。彼の車は直ぐに発見され、5台のオフロードカーが取り囲む様に駐まった。
数人が銃を手に下りて来て、不審車を調べる為に近づいた。
 ダリルは2番目を走って来た車に静かに歩み寄った。車内の人間は下りないで、仲間の動向を見ている。その後部席のサイドウィンドウをダリルはコツコツとノックした。
後部席の白髪の男が振り返った。ダリルが挨拶した。

「今晩は、ラムゼイ博士。」

運転席の男と、外に出ていた男たちが振り返った。
忽ち銃口がダリルに向けられたが、白髪の男が片手を揚げて彼らを制した。
彼は運転席の男に何か囁き、自分は車外に出た。
かすかなブーンと言うモーター音が聞こえた。歩行障害がある人間が使用する重力サスペンダーの音だ。機械で体を吊り上げ、脚に体重を掛けないようにする。高価なので、金持ちにしか買えないし、まず一般の地球人は使わない。
白髪の男は、地球の年齢で60代に見えた。20世紀より人類の寿命が短くなっているのだから、かなり高齢な部類に入る。老化度も、20世紀の人間だったら90近くに見えただろう。コロニー人やドーマーだったら100歳は越えている肉体だ。
つまり・・・ダリルにはこの違法遺伝子学者が実際は何歳なのか見当がつかなかった。
ただ、18年前に会った時より歳を取っている。それだけは言えた。

「誰かと思えば、あの『はぐれドーマー』じゃないか。」

 ラムゼイはダリルを覚えていた。無理もない、遺伝子管理局の局員でありながら、メーカーにクローンの子供、それも男同士の遺伝子を合わせた子供を創れ、ととんでもない発注をしてきた珍客だったから。
 ラムゼイの部下たちがダリルにライトの光を浴びせた。眩しいので、ダリルは手で目をかばった。
 ドーマーと聞いて、部下たちが色めき立った。管理局員だと思ったのだ。だから、ラムゼイは彼らを宥めた。

「こいつは心配ない、再教育が必要な脱走者だ。」

そして、ダリルに向き直って、微笑んだ。

「18年たってもあまり歳を取っていないな、流石にドーマーは今の地球の環境に影響される速度が遅いと見える。」
「そうかね? 先日出遭った管理局員は、私を見て、オッサンになったと言ったぞ。」

ダリルも老科学者を見ながらニヤリとした。

「風の噂では、あんたは他のメーカーと戦争になってやられたって聞いたんだがな。」