2016年8月28日日曜日

4X’s 26

ダリルは1枚目の紙の塩基配列を指した。

「これは1人の塩基配列だ。」

2枚目を指して、

「これは3人分だ。3人の人間のX染色体だけを彼女は描いた。」

彼はJJに尋ねた。

「1枚目は君のお母さんで、こっちの3人は・・・その・・・お父さんになるのかな?」

ぽかんとするライサンダーを無視して、JJは頷いた。
ダリルは、「4X」の本当の意味を理解した。JJはX染色体の4倍体ではなく、4人の人間のX染色体の遺伝子組み換えで生まれた子供だったのだ。
遺伝子の組み換えは、人間以外では頻繁に行われた。特に農産物や家畜だ。人間への応用は、宇宙で行われていたと推測されるが、ダリルはその歴史を教わっていない。ドームでは、胎児に致死遺伝子があると見なされた場合のみ、執政官たちの合議の元で処置が行われていた。地球人として不自然であり、あってはならない遺伝子があった場合も同様だが、基本的には、してはならない処置だったのだ。
 そして、この技術は、ドーム外のメーカーごときが行える様な簡単な物ではないのだ。
ベーリングと言うメーカーがどれ程の知識と技能を持っていたのかわからないが、JJは高度な技術の産物なのだ。
 ドームとラムゼイはそれを知って、彼女を手に入れようと追跡しているのだろうか? だがラムゼイは別にして、ドームにそうする必要があるのか?

 それにしても・・・

「君は誰からこれを教わったんだい? 君のご両親が教えたのか?」

 すると、JJは沈黙した。喋らない少女だから、手を動かさなくなったと言った方が正解か。
 黙ってダリルを見て、それから馬鹿みたいに自分を見つめているライサンダーを見た。
彼女はペンを取り、紙に文章を書いた。

ー貴方は澄んだ水が流れる川の様。彼にも同じ水が流れている。

これは詩ではないよな・・・とダリルはまた考え込んだ。しかし、彼女が直答を避けて敢えてこの形で答えたのだと察しはついた。
すると、ライサンダーが、初めて口を開いた。

「彼女は教えられたんじゃないんだね? わかるんだ、きっと! 人間を見たら、その・・・遺伝子がわかるんじゃない?」