生物を塩基配列のレベルで見る人間など存在するだろうか?
ダリルはさぼっていた畑の手入れをしながら、考えていた。機械にだって、簡単にできる作業ではない。ドームでも研究所と呼ばれるドーマー立ち入り禁止区間でしか行われない作業だ。JJが本当にそう言うレベルで世界を見ているのだとしたら、この世界はどんな風に見えているのだろう。 彼女は、文字を書けるし、図も描ける。だから、普通の人間と同じ物も見えているのだ。遺伝子を見る時だけ、頭の視覚分析機能が別の働きをするのだろうか。
想像がつかない。
ダリルは小型トラクターを操作する手を止めた。狭い耕地は十分に手入れされた。雑草も取り除かれた。しかし、彼の心中はもやもやしていた。ひどく重大な案件を抱え込んでしまった気分だ。ドームがJJを追跡するのは、彼女が遺伝子を分析出来るからだ。そうに違いない。地球人が女性を生めなくなった謎を彼女が解くことを期待して、彼女を手に入れたがっている。彼女自身はそれに気が付いているだろうか? 自分が人類の運命を握る鍵を持っていることを。
当のJJは、畑仕事が一段落ついたライサンダーと裏の溜め池で水遊びをしていた。
泥を掴んで投げ合ったり、水をかけあったり、ほとんど幼児と同じだが、兄弟がいなかったライサンダーは楽しかった。それはJJも同じだろう。同じ年代の子供がメーカーの研究所にいたことがなかったのだから。2人とも、単純に、このままずっと一緒に暮らすと楽しいだろうな、と思った。だから、夕食の時に、ダリルがポールに連絡をするつもりだと言った時、ライサンダーは怒った。
「あのスキンヘッドのオッサンは、JJを池で遊ばせたり、洗濯を教えたりしないよ、檻に閉じ込めて、彼女を動物みたいに実験に使うんだ、きっとそうだ!」
「ドームはそんなことをしないよ。JJは多分、執政官・・・いや、遺伝子学者たちと一緒に仕事をしてくれと頼まれるだろう。彼女の特殊な才能が必要とされているだけなんだ。」
きっとそうだ、とダリルは自分に言い聞かせたことを言った。そして、ドームに行く方が彼女にとって安全なのだと息子にわからせようとした。しかし、友達を取られたくないライサンダーは聞く耳を持たなかった。
「その安全なドームから、どうして父さんは出て来たんだい?」
彼は、ポールが送って来た端末を出した。
「これは、ドームに父さんの居場所を教えている機械だろ? スキンヘッドのヤツは、いつでも父さんを見つけられるんだ。多分、JJがここにいることも、もう知っているよ。」
それはまだだとダリルが言おうとする前に、ライサンダーは端末を床に叩きつけた。止める間もなく、足で踏みにじる。
機械は惜しくなかったが、ダリルは溜息が出た。
「そんな乱暴な子に育てたつもりはなかったのだが・・・」
するとライサンダーは、父親を睨み付けて言った。
「きっと、俺の残り半分の遺伝子提供者の血筋だよ。父さんは俺が何も知らないと思っていたの? 俺はメーカーに創られたクローンだってことぐらい、知ってるよ。街で出れば、そんな話はいくらでも聞くんだ。俺には母さんがいない。父さんは母さんの話をしたことがない。父さんは、結婚したことがないんだろ? メーカーにクローンを創らせるのは違法だってこと、知ってるよね? 父さんがそれを摘発する仕事をしてたんだろ? 父さんは違反して、ドームを逃げたんだ。俺、間違ってる?」
ダリルは何も言い返せなかった。息子は馬鹿ではない。時々、ダリルが驚くほど頭脳明晰な面を見せる。今まで、知らないふりをして、父親を騙してきたのだ。一体、いつから?
いや、今はそんなことはどうでも良い。
「ドームは確かに、世間から見れば謎だらけの不可解な場所だろうが、絶対にJJを不幸な目に遭わせたりしない。JJは安全が確保出来れば自由に出入り出来るはずだ。今は、JJの身を守れる場所はドームしかないんだ。」
ダリルはさぼっていた畑の手入れをしながら、考えていた。機械にだって、簡単にできる作業ではない。ドームでも研究所と呼ばれるドーマー立ち入り禁止区間でしか行われない作業だ。JJが本当にそう言うレベルで世界を見ているのだとしたら、この世界はどんな風に見えているのだろう。 彼女は、文字を書けるし、図も描ける。だから、普通の人間と同じ物も見えているのだ。遺伝子を見る時だけ、頭の視覚分析機能が別の働きをするのだろうか。
想像がつかない。
ダリルは小型トラクターを操作する手を止めた。狭い耕地は十分に手入れされた。雑草も取り除かれた。しかし、彼の心中はもやもやしていた。ひどく重大な案件を抱え込んでしまった気分だ。ドームがJJを追跡するのは、彼女が遺伝子を分析出来るからだ。そうに違いない。地球人が女性を生めなくなった謎を彼女が解くことを期待して、彼女を手に入れたがっている。彼女自身はそれに気が付いているだろうか? 自分が人類の運命を握る鍵を持っていることを。
当のJJは、畑仕事が一段落ついたライサンダーと裏の溜め池で水遊びをしていた。
泥を掴んで投げ合ったり、水をかけあったり、ほとんど幼児と同じだが、兄弟がいなかったライサンダーは楽しかった。それはJJも同じだろう。同じ年代の子供がメーカーの研究所にいたことがなかったのだから。2人とも、単純に、このままずっと一緒に暮らすと楽しいだろうな、と思った。だから、夕食の時に、ダリルがポールに連絡をするつもりだと言った時、ライサンダーは怒った。
「あのスキンヘッドのオッサンは、JJを池で遊ばせたり、洗濯を教えたりしないよ、檻に閉じ込めて、彼女を動物みたいに実験に使うんだ、きっとそうだ!」
「ドームはそんなことをしないよ。JJは多分、執政官・・・いや、遺伝子学者たちと一緒に仕事をしてくれと頼まれるだろう。彼女の特殊な才能が必要とされているだけなんだ。」
きっとそうだ、とダリルは自分に言い聞かせたことを言った。そして、ドームに行く方が彼女にとって安全なのだと息子にわからせようとした。しかし、友達を取られたくないライサンダーは聞く耳を持たなかった。
「その安全なドームから、どうして父さんは出て来たんだい?」
彼は、ポールが送って来た端末を出した。
「これは、ドームに父さんの居場所を教えている機械だろ? スキンヘッドのヤツは、いつでも父さんを見つけられるんだ。多分、JJがここにいることも、もう知っているよ。」
それはまだだとダリルが言おうとする前に、ライサンダーは端末を床に叩きつけた。止める間もなく、足で踏みにじる。
機械は惜しくなかったが、ダリルは溜息が出た。
「そんな乱暴な子に育てたつもりはなかったのだが・・・」
するとライサンダーは、父親を睨み付けて言った。
「きっと、俺の残り半分の遺伝子提供者の血筋だよ。父さんは俺が何も知らないと思っていたの? 俺はメーカーに創られたクローンだってことぐらい、知ってるよ。街で出れば、そんな話はいくらでも聞くんだ。俺には母さんがいない。父さんは母さんの話をしたことがない。父さんは、結婚したことがないんだろ? メーカーにクローンを創らせるのは違法だってこと、知ってるよね? 父さんがそれを摘発する仕事をしてたんだろ? 父さんは違反して、ドームを逃げたんだ。俺、間違ってる?」
ダリルは何も言い返せなかった。息子は馬鹿ではない。時々、ダリルが驚くほど頭脳明晰な面を見せる。今まで、知らないふりをして、父親を騙してきたのだ。一体、いつから?
いや、今はそんなことはどうでも良い。
「ドームは確かに、世間から見れば謎だらけの不可解な場所だろうが、絶対にJJを不幸な目に遭わせたりしない。JJは安全が確保出来れば自由に出入り出来るはずだ。今は、JJの身を守れる場所はドームしかないんだ。」