2016年8月27日土曜日

4X’s 24

 ダリルはその声に聞き覚えがあった。18年前にも聞いていた。ライサンダーが新生児として人工子宮から出た時、ダリルに赤ん坊の抱き方を教えてくれた若者だ。彼はミルクの作り方や与え方、オムツの替え方まで教授してくれた。

「ジェリー? 君か?」

彼が運転席を覗き込もうとすると、ラムゼイが話題を変えた。

「ところで、おまえさん、この辺りで若い女を見かけなかったか?」

ダリルは顔を上げた。

「女? どんな女性だ?」
「知らないのであれば、今の質問は忘れろ。身のためだ。」

ラムゼイがここへ来た本当の目的は、少女の捜索だ。ダリルはもう少し時間を稼ぐことにした。ライサンダーと少女には出来るだけ遠くへ逃げて欲しい。

「あんたの部下が何か拾ってきたら、見せてもらっていいかな? 私に関する物があれば、ここで処分したい。」
「いいだろう、まだ夜は長い。」

 ダリルとラムゼイはやっと場所を移動して、枯れた植え込みを囲む石組に腰を下ろした。

「ところで、あんたは同業者と戦争するはめになることをやらかしたのか?」
「いろいろ営業妨害したのでな、ものすごーく気に障ることをうちの若いのがやったんだろう。」

 ラムゼイは遠慮無くダリルをじろじろと眺めた。

「おまえさんは、今、何をやって食っているんだ? ドームを出た元ドーマー連中は大概支部や出張所で働いているが、脱走者はそうも出来まい。」
「私は渡りの運送業をしているのさ。一箇所に留まらないから、あまり当局の目につかずに済む。それに、もう遺伝子云々の仕事には関わりたくないんだ。」
「そうか・・・困ったことがあれば、いつでも儂の所へ来ると良い。」

 ダリルはラムゼイが別の隠れ家の住所を言うのかと期待したが、老人はそれ以上は触れなかった。なかなか一筋縄ではいかない男だ。
 そこへ部下たちが戻って来た。手土産はほとんどなくて、当然、ダリルに関する物など何もなかった。
ラムゼイ博士がダリルに言った。

「儂が言った通り、おまえさんの物は何もないだろう? さぁ、さっさとねぐらに戻れ。儂はまだやることがある。」

 ダリルは素直に車に乗り、エンジンをかけた。
ラムゼイ博士は既に彼に背を向けて、廃墟の方向へ歩き始めていた。
博士の車から、運転席に居た男が降りて、博士の後を追った。