2017年2月28日火曜日

オリジン 8

 昼食が終わると、ライサンダーはジェリー・パーカーを散歩に誘った。もっと話をしたかったのだ。ジェリーは快く承諾してくれた。 2人は監視役のアキ・サルバトーレ・ドーマーを後ろに従える形で食堂の外へ出た。これと言って目的地はなく、ぶらぶら歩いた。

「生活は楽しいかい?」
「まぁ・・・辛くはないな。少なくとも研究室の仲間はみんな気持ちの良い人達だ。JJもいるし、PちゃんもJJ目当てでたまに顔を出すから。」
「そうなんだ?」
「PちゃんとJJが付き合っているのは知っているか?」
「うん。」
「ダリルと副長官とは?」
「今朝、気が付いた。」
「気がついた?」
「うん、2人の雰囲気で・・・」
「彼等はおまえには直接言っていないのか?」
「PちゃんとJJのことも、パパラッチサイトで知ったんだ。親達は個人的なことは俺に言わない。」
「まぁ、ドーマーだからな、連中は。結婚する訳じゃないし、子供も作らないから、公言するつもりもないだろう。」
「だけど、地球人とコロニー人の恋愛は拙いだろ?」
「どっちが積極的かってことだ。コロニー人が誘うのは問題になるが、地球人の方からモーションかけるのは大目に見てもらえるらしいぜ。」
「親父はどっちだろう?」
「そりゃ、あの脳天気の方に決まってるじゃないか。ラナ・ゴーンは慎重な女だから、ダリルは何度もアタックしては肩透かし食ってるそうだ。」
「親父がそう言ったのか?」
「Pちゃんがな。おっと、陰口じゃないぞ。ちゃんと当人の前で喋ってるから。」
「みんなプラトニックなんだって?」
「随分古くさい表現だな。まっ、ドーマーが喋る言葉はコロニー人から教えられたものだからな、コロニーでは地球から移住した時代の言葉がそのまま残っているんだ。地球じゃピュアな関係って言うのさ。上司達も承知しているんだろ。仲を引き裂こうとしていないから。」

 ライサンダーは立ち止まった。

「俺、理解出来ないんだけど、Pちゃんは本気でJJが好きなのか? 親父はどうなるんだ?」
「どうもなりはしないさ。それにJJのことは本気だ。」

 ジェリーは監視員のサルバトーレをちらりと見た。

「Pちゃんは絶対にダリルを手放さない。あの男は生粋のドーマーだから、執政官の許可がなければJJと結婚しないし、もし許可が出ても彼女とは一緒に住まないだろう。彼にとってドーム全体が家みたいなものだ。女房と寝室が離れている程度の感覚だと思うぜ。」

 ライサンダーは頭が混乱しそうになった。ポール・レイン・ドーマーの恋愛観が可笑しいのか、それともドーム全体がまともではないのか?

「ジェリーは誰か好きな人いないの?」
「そんなヤツいない。」

 即答だった。

「俺ももういい歳なんだ。外じゃ孫がいて現役を引退する頃じゃないのか? 」
「でも若いじゃん。あんた、地球人のオリジナルなんだろ? 昔の地球人はもっと長生きしていたんだ。」
「コロニー人ほどじゃないがね。」
「シェイと結婚しないの?」
「シェイと?」

 ジェリーが吹き出した。

「シェイは姉みたいなもんなんだ。それに彼女にも選ぶ権利はあるさ。」