2017年6月27日火曜日

侵略者 4 - 3

 ブルース・デニングズがアメリカ・ドームに持ち込んだガンマ星の「遺伝子異常のサンプル」は人間のものではなかった。牛の細胞だった。ケンウッドはがっかりしたが、取り敢えず地球の牛のものと比較してみた。両者はよく似ていて、どこが悪いのかケンウッドは見当も付かなかった。
 自身の本業とγカディナ黴に起因する病気の治療法の研究の両立は時間のやりくりで何とかやっていけた。
 ドームに以前のようなゆったりとした日々が戻って来た。入院した人々が恢復して職場復帰して、新しく遺伝子管理局に入った3人の若いドーマーも抗原注射を打たれ、先輩達に連れられてドームの外へ出かけたり、本部のオフィスで書類を書いたりと働き始めた。
 その間に、サンテシマ・ルイス・リン長官と彼のシンパの執政官の行動が少しずつ派手になってきた。今までそこに居るだけで彼等を牽制していた遺伝子管理局の局長が入院中なので、好き放題を始めたのだ。研究所の助手をしているドーマー達や、「お勤め」で研究所に来たドーマー達が被害を受けた。リン長官の取り巻き達は、職務中は素手で検査対象のドーマーに触れてはいけないと言う地球人類復活委員会の規則を平然と破った。
 最初は素手で肌を撫でるところから始まり、やがて生殖細胞採取の際、ドーマー本人が行う動作を彼等が手を添えるようになったのだ。ドーマー達にとって、これは法律違反どころのレベルではない、重大な侮辱行為だった。
 助手達から話を聞いたケンウッドやパーシバル、その他古くからドームで働いてきた執政官達は長官に意見したが、注意しておくと言う言葉であしらわれた。
 パーシバルはお気に入りのドーマー達を守る為、ファンクラブを結成した。ドーマーが公の場にいる時はファンクラブのメンバーで取り巻き、リン長官のシンパが近づくと牽制した。しかし、ドーマーの人数は執政官より遙かに多い。全員を守りきれるものではない。
 リン長官とそのシンパの質の悪いところは、手を出したドーマーには優遇処置をとることだった。最初はショックを受けて抗議したドーマー達も懐柔されて大人しくなってしまう。ケンウッド達が被害届を出すよう勧めても、やがて有耶無耶になってしまうのだった。
 ケンウッドは焦りを感じた。動けば長官に反体制派として粛清される。しかし良心には逆らえない。この閉塞感を打開するには、やはりハイネを目覚めさせなければならないと彼は決意した。
 ガンマ星の住民が太陽系に来ていないかと調べてみたが、見つからなかった。そこで試しにガンマ星の隣、入植者の基地があるベータ星の住人を調べると、木星の第1コロニーに1人の医師が研修に来ていることがわかった。早速連絡を取ってみると、会ってくれると言う返事が来た。落ち合う場所は月にした。ケンウッドは新たな訓練所の生徒を抱え込むことになり、長時間ドームを離れる訳にいかなくなったからだ。