2018年11月6日火曜日

牛の村   2 1 - 5

 優秀なクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーは約束の時間きっちりに報告書を送信して来た。ハイネはそれを読み、ワグナーと半時間ばかり話し合った。レイモンド・ハリスの裏切りによってポール・レイン・ドーマーがラムゼイに売られたのは確実だ。ワグナーは警官をハリスの自宅に送ったが、逃亡した後だったと言った。

「現在追跡させています。ハリス支局長はあまり遠出をなさる人ではなかったそうで、あまりここの地理に詳しくありません。警察は大きな道路を重点的に封鎖して検問を行うと言っています。」
「ハリスの追求を君に一任して良いか? レインの救出はこちらでやる。」

 ワグナーは少し躊躇った。彼も部屋兄弟で上司のレインを救出したいのだ。しかし、彼は冷静な男だった。大勢で一つのことに取り掛かっても物事が早く解決するとは限らない。彼は局長の判断を尊重することにした。

「わかりました。ハリスを追います。レインをお願います。」
「ハリスの追求には君とキエフを充てる。他の部下達は指示があり次第すぐ動けるよう待機させてくれ。」

 何故キエフが俺と? とワグナーは一瞬疑問に思ったが、レインがいない時にキエフを他の部下達と一緒にさせるのは拙いと思い当たった。アレクサンドル・キエフ・ドーマはレインに異常な程執着している。誰かが監視していないと身勝手な行動を取るだろう。それに他の部下達は、チーフを敵の手の中に残して戻って来たキエフを快く思っていない。西ユーラシア・ドームから望まれてやって来た筈なのに、キエフ・ドーマーはその神経質で一つのことに固執する性格が災いして、チームの誰からも歓迎されていなかった。

 局長はキエフの性格をご承知なのだ・・・

 「了解しました。仲間は休憩を取らせて、移動もしくは出動に備えさせておきます。僕はこれから警察と共にハリスを追います。もしあの男がメーカーと合流などしたら、ドームの情報が漏れてしまいますから。」
「十分に気をつけるように。」

 ハイネは通話を終えた。ワグナーには妻がいる。キャリー・ワグナー・ドーマーを悲しませるようなことになってはならない。ワグナーは必ず無事に帰還しなければならない。
 ハイネはどの子供達も失いたくなかった。レインも、あのよく理解出来ないロシア系の衛星データ分析官も、大事な子供達だ。自分がドームの外に出て行って指揮を執れれば良いのだが。
 くよくよ悩む暇もなく、ホアン・ドルスコ・ドーマーから搭乗機が安定飛行に入ったと連絡が入った。ハイネはクロエル・ドーマーに局長執務室に来るよう指示を送り、ドーソン・ドーマーに現在地を尋ねた。ドーソンは間も無くドーム・シティの上空に到達する頃ですと答えたので、会議を半時間後に開くと伝えた。