2018年11月9日金曜日

牛の村   2 1 - 8

「僕ちゃん、やります。」

 クロエル・ドーマーがポール・レイン・ドーマー救出作戦の指揮を引き受けた。ハイネは頷き、ドルスコ・ドーマーに中米の遺伝子管理業務を引き受けるよう要請した。ドルスコは我慢できなくなって、局長に意見した。

「局長、どうしてそんな遠慮がちな物言いをなさるのです? はっきり、私に『やれ』と命じて下されば済むことです。」

 ハイネは微笑んだ。

「君に中米と南米の両方をこなせる能力があることは十分承知している。君の才能に敬意を表したつもりだよ。」

 クロエルとドーソンは、ドルスコが頬を赤らめるのを見た。南米班チーフははにかみながら言った。

「失礼しました。高く買っていただいて光栄です。クロエルが安心して救出作戦に専念出来るよう、通常業務をしっかり管理します。」

 ドーソンも微笑んだ。

「ホアン、君は一体何年局員をやっているんだ? 局長はいつも若い者にだって敬意を払ってくださっているじゃないか。」

 すると、クロエルが「よろしく〜」とドルスコに挨拶した。おちゃらけたと思うと、すぐに真面目な表情に戻った。

「局長、さっきも言いましたが、僕は北米の地理に詳しくありません。そこで、助っ人を選ばせて下さい。」
「助っ人が要るのか?」
「要ります! 現地の地理に詳しくて、僕同様に時間制限がなくて、僕のアイデアに乗ってくれる人です。」

 そんなヤツがいるのか?とドーソンが目で問いかけた。ドルスコも画面の中で首を傾げた。ハイネは一瞬考え、そして、ああ、と呟いた。

「セイヤーズを連れて行きたいのか。」

 えっ!とドーソンが声を上げた。ドルスコも目を剥いた。ダリル・セイヤーズはレインが逮捕してまだ日が浅い。しかも執政官達が数日前から彼の子供を作るプロジェクトに取り掛かったばかりだ。それに、ドームの外に出してはいけないS1遺伝子保有者ではないか。
 2人共、ハイネが反対するものと思ったが、ハイネ局長は面白そうに頷いた。

「確かに、君が提示する条件にぴったりの男だな。」
「ケンウッド長官を説得して頂けませんか、局長?」
「長官を説得しろと言うのか?」

 ハイネは時計を見た。時刻は午後8時前になろうとしていた。

「緊急事態発生をまだ報告していないのだ。」

と彼は言った。

「出来れば遺伝子管理局の内だけで解決させたかったが、そうも行くまいよ。地球人の問題に地球人を投入するのは間違いではない。コロニー人達からセイヤーズを返してもらおうか。」

 そして彼は画像の中の部下を見た。

「夜中前にドームに到着するだろう? それまで休んでいなさい。深夜に緊急会議の招集がある筈だ。」
「わかりました。では、暫く失礼します。」

 ドルスコ・ドーマーは自らカメラをオフにして、局長執務室の会議テーブルの上空から消えた。
 ハイネはドーソン・ドーマーとクロエル・ドーマーを見た。

「さて、深夜の大仕事の前に、腹ごしらえに行こうか?」