2018年11月13日火曜日

牛の村   2 2 - 1

「さてと・・・ドーマー諸君、ポール・レイン・ドーマーを救出する具体案を聞かせてもらえるのだろうね?」

 執政官幹部と遺伝子管理局幹部だけになった小会議室で、ケンウッド長官が尋ねた。時刻は午後11時になろうとしていた。
 長官の言葉を聞いて、ハイネ局長がクロエル・ドーマーを見た。ドルスコ・ドーマーもドーソン・ドーマーも、中米班チーフを両側から見た。
 クロエルが肩をすくめ、両手を上向けにして持ち上げた。

「具体案なんて、なぁ〜んにもないっす!」
「何だって?」

 クロエルの養母ラナ・ゴーン副長官が眉を顰めた。

「ふざけるのはお止しなさい、クロエル・・・」
「ふざけてなんかいないっす。」

 クロエルが頭を掻いた。

「夕方、いきなり僕が救出の指揮を執るって決まったんす。だから実際に現地に行かないと、なぁんにもアイデアが浮かばないっす。」

 ケンウッドは不安になって局長を見た。

「ハイネ?」
「私も何も考えていませんよ。現場がどんな場所なのか、想像がつきませんから。」

 生まれてから一度もドームの外に出してもらったことがない100歳のローガン・ハイネ・ドーマーは当然のことの様に言った。
 ケンウッドは困惑して、同席しているヤマザキ・ケンタロウ医療区長を見た。ヤマザキは眠いのか、ぼーっとした表情で座っていた。

「それでですねぇ・・・」

 クロエルが突然喋り出した。

「僕ちゃんは北米の地理に詳しくないんすよ。昔、レインとカナダで勤務したことがありますが、今回は南の中西部ですから、街の様子も道路状況も何もわかんないんす。」
「どうして君が選ばれたんだ?」
「適任だからっしょ?」

 ケロリとした顔で言って退ける。

「ドーソン・ドーマーはレインの班の通常業務も引き受けなきゃいけません。ドルスコ・ドーマーは僕ちゃんの班の分をやってくれます。だから、レインは捕虜で、僕ちゃんは救助隊なんす。」

 言っていることはわかるが、それが選任された理由になるのか? ケンウッドは熱が出そうな気分になった。どうして我がドームの遺伝子管理局は曲者ばかりなのだ?
 するとクロエルがいきなり本題に入った。

「地理が不案内の僕ちゃんの為に、ダリル・セイヤーズ・ドーマーをお借りしたいっす!」
「はぁ?!」

 ケンウッドは不意打ちを食らった気分で、ハイネを見た。ゴーンも養子の顔を呆然と見つめているし、幹部執政官達もドーマー達の顔を見比べるばかりだ。
 ヤマザキ・ケンタロウだけが、のんびりと呟いた。

「セイヤーズはジモティだからなぁ・・・強力な助っ人に違いない。」

 しかし、とダルフーム博士が呻いた。

「セイヤーズは女の子を生める地球人男性だ。危険な任務に就かせることは出来ない。」
「それはどうでしょう。」

とようやくハイネが口を開いた。

「セイヤーズは1人でラムゼイと渡り合ったことがあります。そして18年間無事に生きて、子供を育てました。ドームの中で育った人間にしては非常に逞しい。頭が良いし、知恵が回る。そして誠実です。18年間取り替え子の秘密を守り通す気概がありました。
それに救出するのは、彼の恋人です。事件を知れば、誰に言われなくても彼は救助に行きたがるに違いありません。クロエルの相棒として彼は適任ですよ。」