2017年2月9日木曜日

大嵐 15

 ケンウッド長官はその日の午後に開かれた会議は無用のものだと感じていた。議論する必要のない事柄をさも重大事案として話し合いたがる執政官のグループがいたのだ。

「ポール・レイン・ドーマーは遺伝子管理局の北米南部班のチーフです。将来は局長職にも昇り詰める可能性のある幹部クラスの男に、違法クローンの子供がいると、ドーム中に知れ渡ってしまいました。これでは、他のドーマー達に示しが付きません。」

 まくしたてる執政官はポールのファンクラブのメンバーだ。本来ならアイドルを庇ってやるのが筋だろうに、逆に糾弾しようとしている。

「それでは、レインを遺伝子管理局は懲戒免職にしろと?」

と別の執政官が尋ねた。糾弾派はケンウッドの右側、擁護派は左に席を占めていた。

「そこまでしろとは言っていない・・・」
「では、どうしろと言うのだ? 忘れているようだから言ってやるが、クローンの子供を創ったのはダリル・セイヤーズ・ドーマーで、レインは関与していないのだぞ。彼は半年前にセイヤーズを逮捕する迄子供の存在すら知らなかったのだ。」
「そうとも、子供の件でレインを責めるのは間違っている。」
「だが、しかし・・・レインは今、これ見よがしに子供をドームの仲間に披露しているぞ。まるで法律違反などなかったかの様に・・・。」
「セイヤーズが脱走と違法クローン製造でそれなりに処罰されたことはドーム中が知っている。彼は自由にドームを出入り出来ないし、先ず外に住む許可は一生もらえない。『お勤め』の回数も他のドーマー達と比べて遙かに多い。今回の子供の件は特殊な事情を考慮してドームに連れて来ることを、ハイネ局長が許可したのだ。」
「レインが息子を連れ回しているのは、息子に悲劇を忘れさせようとしているのだと言うことを、理解してやらねばならない。あの男なりに父親であろうと努力しているのだ。」

 糾弾派は分が悪い。彼等はアイドルをクローンの息子に奪われて悔しいのだ。嫉妬しているだけだ。だからケンウッドはこの会議は無用だと感じていた。
 彼は黙って議論を聞いていた医療区の医長に声を掛けた。

「ライサンダー・セイヤーズの健康状態はどんな具合だね?」
「精神的なストレスを除けば、完璧に良好ですな。」

 医長は糾弾派にニヤリと笑いかけた。

「クローンとは思えない、完全に健全な地球人の体です。誰が見ても、彼の出自はわからんでしょう。サタジット・ラムジーがどんな方法であの若者を創ったのか、知りたいものです。」
「違法ばかりした男だが、遺伝子学者として惜しい人材を失ったものだ。」
「もっと検体を採取したいのですが、ドームはセイヤーズとの約束を守らねばなりませんからな。息子には絶対に手を出さないと言う・・・」

 そこへ、ラナ・ゴーン副長官が入って来た。彼女は昨夜から人工子宮に保護されたポーレット・ゴダートの胎児に付きっきりで観察していたのだ。胎児が安定したので、やっと地下から上がって来た。