体を動かしたお陰で、ライサンダーは夕食も人並みに食べることが出来た。夕食は部下達も一緒だったので賑やかだった。彼は知らなかったが、ドーマー達は集まることで執政官がお気に入りのドーマーにちょっかいを出すのを防ぐのだが、この日はライサンダーを守っていた。
ライサンダーは遺伝子管理局以外のドーマー達からも挨拶を受けた。ダリルとポールが育った「トニー小父さんの部屋」の卒業生達だ。彼等は厨房班のピート・オブライアン・ドーマーから話を聞いて、「ダリル兄さんとポール兄さんの息子」を見に来たのだ。
「凄いな、兄さん2人のいいとこ取りじゃないか!」
「兄さん達、狡いな、自分達だけ親になって。」
からかいとやっかみと賞賛とで、テーブルはかなり賑やかだった。
「子供時代は何していたんだい?」
「畑で野菜を作ってた・・・」
「本当か!」
と嬉しそうな声を上げたドーマーがいた。
「俺、園芸班の野菜担当なんだ。ダリル兄さんから『土の兄弟』って呼ばれてる。」
ダリルが笑った。
「遺伝子管理局を引退したら園芸班に入れてもらおうと思って、今から根回ししているんだ。」
「そう言えば・・・」
ライサンダーはぼんやりと気になっていたことを質問してみた。
「お年寄りのドーマーを見かけないけど、年を取ったらみんなどうしているの?」
「年長者には年長者の仕事があるのさ。」
と『土の兄弟』が説明した。
「希望通りに行かない場合もあるけど、大方は引退を決意した時にドームに申請を出す。養育棟で幼いドーマーの世話をしたり、出産管理区で女性の世話をするスタッフになったり、配車や機械整備など・・・年齢に関係なくずっと続けられる仕事もあるしね。俺の部署は年齢は関係ないから、結構爺様が働いているよ。」
「ドーム維持班は動けなくなるまで働けるからいいよね。遺伝子管理局や保安課、航空班などは年を取ったら辛くなるから、引退する時期を考えなきゃならない。」
ライサンダーはセント・アイブスのリュック・ニュカネンを思い出した。
「ドームの外には出ないの?」
「歳を取ってから外に出るのは、もっと辛いよ。僕等はドームの中しか知らないからね。出るなら30歳前後が限界かなぁ。」
「出たヤツは本当に勇気があるよ。マジ、尊敬する。」
「外に出るヤツって、殆どが女の引力に負けるんだよ。出たらすぐ結婚しているだろ?」
「確かにね!」
食事の後、ダリルとポールはライサンダーをアパートに連れ帰った。
ライサンダーは想像したよりシンプルな親達の住処を眺めた。
「まるで寝るだけの部屋みたいな家だね。」
「確かに、そう言えるな。休日もジムや図書館で過ごすことが多いから。」
明日着用するライサンダーの衣服が届けられていた。
ダリルが小さい寝室を息子の部屋として準備した。山の家から連れて来られた時にクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが持って来てくれたライサンダーのキルティングも用意した。それを見た時、またライサンダーは胸にグッとくるものがあった。
「父さん、俺達、もう山へ帰れないのかな?」
「おまえは自由だから、いつでも帰れるさ。」
「でも父さんがいない家なんて・・・」
「おまえが好きな様にすれば良い。住むなり、売るなり・・・」
「あの家を買いたいって人っているかな・・・」
その頃、ポールは居間でドームの外からの電話を受けていた。
「こんばんは、レインさん、アメリア・ドッティです。 ポーレットの事件、聞きました・・・」
アメリア・ドッティはポーレット・ゴダートに命を救われた。恩人の不幸に驚いて電話を掛けてきたのだが、何故俺なんだ? とポールは疑問に思った。アメリアが親しくしているのはダリルの方だろうに・・・。
「ポーレットの夫のライサンダー・セイヤーズは、ダリル・セイヤーズさんの息子さんなのですよね?」
「ええ・・・」
「そして、貴方の息子さん・・・」
どうしてそれをアメリアが知っているのだ? ポールは驚いて、思わず端末を見つめた。
「ごめんなさい、伯母様からお聞きしました。」
「ああ・・・そうですか・・・」
アーシュラ・R・L・フラネリーが秘密を暴露したと言うのか? 一体何人に喋ったのだ? ポールはうろたえた。 彼自身の名声が地に落ちるのはかまわない。だが、大統領の身に降りかかったら困るだろうに。
彼の焦りを察したのか、アメリアが真面目な声で言った。
「フラネリー家に不利なことは、外部に漏らしませんわ。」
「そうでした、貴女も一族の一員でしたね。」
「貴方が従兄だと知って正直驚きました。でも、それで貴方とハロルドがよく似ている理由がわかりました。貴方はフランシスと双子なのですね。」
母アーシュラはそう言う説明で誤魔化したのか。女性がクローンだと知られずに、フランシス・フラネリーを傷つけずに、ポール・レイン・ドーマーが実は親族だと知らせる為の嘘だ。
「今回の不幸な事件の後始末は、ドッティ家が引き受けます。フラネリー家には迷惑を掛けません。私がポーレットにして差し上げられる精一杯の恩返しです。」
ライサンダーは遺伝子管理局以外のドーマー達からも挨拶を受けた。ダリルとポールが育った「トニー小父さんの部屋」の卒業生達だ。彼等は厨房班のピート・オブライアン・ドーマーから話を聞いて、「ダリル兄さんとポール兄さんの息子」を見に来たのだ。
「凄いな、兄さん2人のいいとこ取りじゃないか!」
「兄さん達、狡いな、自分達だけ親になって。」
からかいとやっかみと賞賛とで、テーブルはかなり賑やかだった。
「子供時代は何していたんだい?」
「畑で野菜を作ってた・・・」
「本当か!」
と嬉しそうな声を上げたドーマーがいた。
「俺、園芸班の野菜担当なんだ。ダリル兄さんから『土の兄弟』って呼ばれてる。」
ダリルが笑った。
「遺伝子管理局を引退したら園芸班に入れてもらおうと思って、今から根回ししているんだ。」
「そう言えば・・・」
ライサンダーはぼんやりと気になっていたことを質問してみた。
「お年寄りのドーマーを見かけないけど、年を取ったらみんなどうしているの?」
「年長者には年長者の仕事があるのさ。」
と『土の兄弟』が説明した。
「希望通りに行かない場合もあるけど、大方は引退を決意した時にドームに申請を出す。養育棟で幼いドーマーの世話をしたり、出産管理区で女性の世話をするスタッフになったり、配車や機械整備など・・・年齢に関係なくずっと続けられる仕事もあるしね。俺の部署は年齢は関係ないから、結構爺様が働いているよ。」
「ドーム維持班は動けなくなるまで働けるからいいよね。遺伝子管理局や保安課、航空班などは年を取ったら辛くなるから、引退する時期を考えなきゃならない。」
ライサンダーはセント・アイブスのリュック・ニュカネンを思い出した。
「ドームの外には出ないの?」
「歳を取ってから外に出るのは、もっと辛いよ。僕等はドームの中しか知らないからね。出るなら30歳前後が限界かなぁ。」
「出たヤツは本当に勇気があるよ。マジ、尊敬する。」
「外に出るヤツって、殆どが女の引力に負けるんだよ。出たらすぐ結婚しているだろ?」
「確かにね!」
食事の後、ダリルとポールはライサンダーをアパートに連れ帰った。
ライサンダーは想像したよりシンプルな親達の住処を眺めた。
「まるで寝るだけの部屋みたいな家だね。」
「確かに、そう言えるな。休日もジムや図書館で過ごすことが多いから。」
明日着用するライサンダーの衣服が届けられていた。
ダリルが小さい寝室を息子の部屋として準備した。山の家から連れて来られた時にクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが持って来てくれたライサンダーのキルティングも用意した。それを見た時、またライサンダーは胸にグッとくるものがあった。
「父さん、俺達、もう山へ帰れないのかな?」
「おまえは自由だから、いつでも帰れるさ。」
「でも父さんがいない家なんて・・・」
「おまえが好きな様にすれば良い。住むなり、売るなり・・・」
「あの家を買いたいって人っているかな・・・」
その頃、ポールは居間でドームの外からの電話を受けていた。
「こんばんは、レインさん、アメリア・ドッティです。 ポーレットの事件、聞きました・・・」
アメリア・ドッティはポーレット・ゴダートに命を救われた。恩人の不幸に驚いて電話を掛けてきたのだが、何故俺なんだ? とポールは疑問に思った。アメリアが親しくしているのはダリルの方だろうに・・・。
「ポーレットの夫のライサンダー・セイヤーズは、ダリル・セイヤーズさんの息子さんなのですよね?」
「ええ・・・」
「そして、貴方の息子さん・・・」
どうしてそれをアメリアが知っているのだ? ポールは驚いて、思わず端末を見つめた。
「ごめんなさい、伯母様からお聞きしました。」
「ああ・・・そうですか・・・」
アーシュラ・R・L・フラネリーが秘密を暴露したと言うのか? 一体何人に喋ったのだ? ポールはうろたえた。 彼自身の名声が地に落ちるのはかまわない。だが、大統領の身に降りかかったら困るだろうに。
彼の焦りを察したのか、アメリアが真面目な声で言った。
「フラネリー家に不利なことは、外部に漏らしませんわ。」
「そうでした、貴女も一族の一員でしたね。」
「貴方が従兄だと知って正直驚きました。でも、それで貴方とハロルドがよく似ている理由がわかりました。貴方はフランシスと双子なのですね。」
母アーシュラはそう言う説明で誤魔化したのか。女性がクローンだと知られずに、フランシス・フラネリーを傷つけずに、ポール・レイン・ドーマーが実は親族だと知らせる為の嘘だ。
「今回の不幸な事件の後始末は、ドッティ家が引き受けます。フラネリー家には迷惑を掛けません。私がポーレットにして差し上げられる精一杯の恩返しです。」