2017年2月18日土曜日

大嵐 25

 ライサンダーは気になっていることを長官に尋ねた。

「俺は進化型1級遺伝子を持っているんじゃありませんか? 外に住んでいても良いのでしょうか? 娘に遺伝しているのではないかと心配です。」

一気に質問したので、ケンウッド長官は直ぐには応えなかった。少し考えてから、質問で返してきた。

「君はさっき使っていたコンピュータを今すぐに分解出来ますか?」
「え?」

 ライサンダーは質問の意味を解せず、戸惑った。

「そんなこと、出来る訳ないでしょう?」
「ダリルは出来ますよ。」
「親父は特別なんです。」
「彼を特別だと思えるのであれば、君は普通の人間です。」
「そうでしょうか?」
「山の家で、機械を分解したりして修理したことがありますか?」
「修理しようとしてさらに壊したことはありますが・・・親父が直してくれました。」
「ダリルは説明書きを読まなくても、機械を見ただけで何をどうすべきかわかっているでしょう。しかし、君はわからない。」
「そうですね・・・」
「ダリルの進化型1級遺伝子は、そう言う種類のものです。だから、君には遺伝していない。君が持っていなければ、君の子供にも遺伝しない。」

 専門家にはっきり言われて、ライサンダーは肩の荷が下りたような気がした。

「俺は普通の人間なのですね。」
「そう、肉体も脳も精神も普通ですね。」

 ケンウッドはライサンダーの笑顔を可愛いと思った。滅多に笑わないポール・レイン・ドーマーが笑えばこんな感じになるのだろう。いつも陽気なダリルの笑顔とは少し趣の異なる笑顔だった。
 ライサンダーがふと遠い目をして言った。

「でも、親父は、針仕事や料理は誰かに教わらないとわからないんですよね。」
「教わる?」
「ええ、俺の蒲団や料理を作ってくれたんですが、ほとんどが町で誰かに教わってきたんです。俺が産まれた時も、ジェリーからミルクの作り方や飲ませ方、襁褓の替え方、抱っこの仕方を習ったって言ってました。」

 ケンウッド長官はライサンダーをぐっと見つめた。彼の視線に籠もった強い力に、ライサンダーは気が付いて少し驚いた。何が長官の注意を惹いたのだろう。

「そうか、わからないのか・・・」

と長官が独り言を呟いた。
 ライサンダーはちょっと不安になった。

「俺、何か親父に不都合なことを言ったんでしょうか?」
「とんでもない!」

 ケンウッド長官が微笑みながら立ち上がった。

「君は今素晴らしいヒントをくれたのです。君はダリルを救うことが出来るかも知れない。」