2017年2月4日土曜日

大嵐 4

 ポール・レイン・ドーマーはその日、朝食前にドームを出て西海岸に向かう飛行機に乗っていた。「飽和」を経験して以来、出張を控えていたのだが、平常の勤務に戻る潮時だと判断したのだ。チーフと言う地位は全ての支局巡りを部下に任せてもかまわないのだが、ドーマー達は働き者なので、どの班のチーフも自ら出かけて行く。ポールも出張が苦にならないし、むしろデスクワークより支局巡りをしたりメーカーの捜査をする方が好きだ。
 ジョン・ケリー・ドーマーからポーレット・ゴダートの交友関係に関する報告を受けた時、彼はドン・マコーリーなる医師を調査するべきだと思った。コンピュータで調べられる経歴は知れている。本人に近づいて探るべきだろうと思ったが、巡回の順番は西から、と決めてあるのですぐに取りかかることが出来ない。仕方が無いので、犬猿の仲のセント・アイブス・出張所のリュック・ニュカネンにマコーリーの身辺調査をメールで依頼しておいた。
 ポールの留守を預かる秘書のダリル・セイヤーズ・ドーマーは、仕事に励んでいた。息子の消息が判明したと教えられた時は興奮してしまったが、今は冷静ないつもの彼に戻っていた。じたばたしても何も変わらないのだから。寧ろ真面目に職務に励んだ方が、外出許可をもらえる機会が得られる近道だ。
 その日は養子縁組申請が多かった。女性が少ないから、子供が欲しい男達が増える。子供達は取り替え子だ。本当の親は女の子をもらって我が子だと信じて育てている。ドームでは「血縁より愛情」と言う教えをドーマーの養育で使用するが、外の人間にも結局のところ押しつけているのだろう、とダリルは思った。
 お昼になって仕事が一段落ついたので、ダリルは食事の為に食堂へ行った。ずっと頭を使っていたので、スープマカロニで食事をしながらぼーっとしていると、正面の席に断りなく座った男が居た。

「隙だらけですけど、セイヤーズ?」

 目線を上げるとクロエル・ドーマーだった。彼は香辛料の利いたラーメンの丼をドンッと置いた。

「ドームの中に居る時はだらだらさせてくれないか。」
「じゃ、ずっとだらだらのままですね。」

 クロエルは器用に箸を使ってラーメンをすすった。

「僕ちゃん、局長に提案してみたんすよ。」
「何を?」
「セイヤーズをこのままデスクに貼り付かせていたら、戦闘員として使い物にならなくなりますよ、って。」
「遺伝子管理局は戦闘職じゃないよ。」
「でも、貴方が出動する時は、大概戦闘絡みじゃないすか?」
「流れでそうなるだけじゃないか。」
「そう流れそうだから、貴方にお呼びがかかるんでしょ?」

 ダリルはフォークを置いた。 

「何が言いたいんだ、クロエル?」

 クロエルがニヤリと笑った。

「午後からお出かけしましょ♪」