ニューポートランドは、港町ポートランドから少し内陸に入った住宅街だった。
古い民家が整然と並ぶ、お上品な町並みにロブスターを食べさせる店があるとは思えず、ジョン・ケリー・ドーマーは少しがっかりした。チーフ・レインはわざわざ別の町へ寄り道しない人だったから・・・。
ライサンダー・セイヤーズの申請書に書かれた住所の家はすぐに見つかった。静かな区域の小ぶりな家が集まった通りに面しており、小さいながらも立派な戸建て住宅だった。道路と入り口の間に狭い芝生の庭があり、家屋の半分を占める車庫のドライブウェイと玄関への通路の間に細長い花壇もあった。
家を見る限り、妻帯許可申請は通せそうだ、と遺伝子管理局の人間は思った。妻帯許可と胎児認知届けがあるなら、婚姻許可も通さなければならない。成人しているから、無理ではない。要するに、申請者が本人なのかどうかの確認だ。
ポール・レイン・ドーマーは車庫に車はないが自転車が1台置かれているのを眺めた。申請者夫婦は同じ職場に勤めており、事務職の妻は自動車で、倉庫番の夫は自転車で通勤していると言う情報を、ヒギンズがそれとなく近所から仕入れて来た。自動車は元々妻の所有で、妊娠しているので彼女がそのまま使用。若い夫は体を鍛えることも念頭に自転車をよく使うと言う。
ライサンダーは在宅だ。
倉庫番なので、夜勤明けに違いない。そろそろ起きてくるだろう。ポールは周囲の住人にあまり見られたくなかった。遺伝子管理局が個人宅に直接出向くのは、大概違法クローン摘発の場合だ。だから今回車は管理局の黒い車ではなく、維持班のバンを借りてきた。スーツの上着をブルゾンに着替えると、ヒギンズは囮捜査の延長かと思ったらしい。パンツも換えたらどうかと言うので、目立たなければ良いのだ、とポールは応えた。
「ライサンダー・セイヤーズって、ミナ・アン・ダウン教授のケースの時に使った名前でしたよね?」
「その本物が現れたのだ。本人確認をするだけだから、緊張しなくても良い。」
それでもポールはケリーに車内に残って、もし申請者の家に近づく者がいれば端末に連絡するように、と命じた。そしてヒギンズを伴って件の家を訪ねた。2人は黒いアイシェードをかけていた。
ドアチャイムを押す役割をヒギンズに任せたのは、ライサンダーが本物だったらヒギンズは只の他人に見えるはずだと踏んだからだ。
果たして、ドアチャイムが鳴ってたっぷり5分待たせてから、ドアが開いた。若い男がまだ寝足りない様な顔で現れた。ヒギンズを見て、彼は尋ねた。
「どちら様?」
ヒギンズがアイシェードを取ってIDを提示した。
「遺伝子管理局です。」
緑色に輝く黒髪の若者がそれを見て、「ああ」と呟いた。
「許可をもらうのに面接が必要なんですね? 俺、クローンだから・・・。」
ポールは心の中で微笑んだ。ライサンダーだ。間違いない。
打ち合わせ通り、ヒギンズがポールを振り返った。
「面接は上司が行います。」
ライサンダーはポールを見たが、スキンヘッドではなかったので、誰だかわからない様だ。彼は頭を掻いた。
「期待した人じゃなかったんだな・・・」
「誰を期待したんだ?」
ポールはアイシェードを取った。
古い民家が整然と並ぶ、お上品な町並みにロブスターを食べさせる店があるとは思えず、ジョン・ケリー・ドーマーは少しがっかりした。チーフ・レインはわざわざ別の町へ寄り道しない人だったから・・・。
ライサンダー・セイヤーズの申請書に書かれた住所の家はすぐに見つかった。静かな区域の小ぶりな家が集まった通りに面しており、小さいながらも立派な戸建て住宅だった。道路と入り口の間に狭い芝生の庭があり、家屋の半分を占める車庫のドライブウェイと玄関への通路の間に細長い花壇もあった。
家を見る限り、妻帯許可申請は通せそうだ、と遺伝子管理局の人間は思った。妻帯許可と胎児認知届けがあるなら、婚姻許可も通さなければならない。成人しているから、無理ではない。要するに、申請者が本人なのかどうかの確認だ。
ポール・レイン・ドーマーは車庫に車はないが自転車が1台置かれているのを眺めた。申請者夫婦は同じ職場に勤めており、事務職の妻は自動車で、倉庫番の夫は自転車で通勤していると言う情報を、ヒギンズがそれとなく近所から仕入れて来た。自動車は元々妻の所有で、妊娠しているので彼女がそのまま使用。若い夫は体を鍛えることも念頭に自転車をよく使うと言う。
ライサンダーは在宅だ。
倉庫番なので、夜勤明けに違いない。そろそろ起きてくるだろう。ポールは周囲の住人にあまり見られたくなかった。遺伝子管理局が個人宅に直接出向くのは、大概違法クローン摘発の場合だ。だから今回車は管理局の黒い車ではなく、維持班のバンを借りてきた。スーツの上着をブルゾンに着替えると、ヒギンズは囮捜査の延長かと思ったらしい。パンツも換えたらどうかと言うので、目立たなければ良いのだ、とポールは応えた。
「ライサンダー・セイヤーズって、ミナ・アン・ダウン教授のケースの時に使った名前でしたよね?」
「その本物が現れたのだ。本人確認をするだけだから、緊張しなくても良い。」
それでもポールはケリーに車内に残って、もし申請者の家に近づく者がいれば端末に連絡するように、と命じた。そしてヒギンズを伴って件の家を訪ねた。2人は黒いアイシェードをかけていた。
ドアチャイムを押す役割をヒギンズに任せたのは、ライサンダーが本物だったらヒギンズは只の他人に見えるはずだと踏んだからだ。
果たして、ドアチャイムが鳴ってたっぷり5分待たせてから、ドアが開いた。若い男がまだ寝足りない様な顔で現れた。ヒギンズを見て、彼は尋ねた。
「どちら様?」
ヒギンズがアイシェードを取ってIDを提示した。
「遺伝子管理局です。」
緑色に輝く黒髪の若者がそれを見て、「ああ」と呟いた。
「許可をもらうのに面接が必要なんですね? 俺、クローンだから・・・。」
ポールは心の中で微笑んだ。ライサンダーだ。間違いない。
打ち合わせ通り、ヒギンズがポールを振り返った。
「面接は上司が行います。」
ライサンダーはポールを見たが、スキンヘッドではなかったので、誰だかわからない様だ。彼は頭を掻いた。
「期待した人じゃなかったんだな・・・」
「誰を期待したんだ?」
ポールはアイシェードを取った。