2017年2月1日水曜日

訪問者 26

 ポール・レイン・ドーマーとロイ・ヒギンズ、ジョン・ケリー・ドーマーがドームに帰投した時は既に午後7時を廻っていた。オフィスには夕食を外で取って帰ると連絡を入れていたので、ダリル・セイヤーズ・ドーマーはポールを待たずに食堂に出かけた後だった。
 3人はそれぞれ報告書を作成した。ヒギンズはドームと連邦捜査局に提出する2通を書いたが、内容は簡潔で、囮捜査を中止する準備として局員2名と共にニューポートランドに日帰り出張したと報告しただけだった。ライサンダー・セイヤーズに対面したことも書いたが、相手は彼をダリル・セイヤーズと混同することはなかったとも書いた。待機中の出来事は特に記載することはないらしく、チーフ・レインが若者との面談を終えて任務は終了したと締めくくった。
 ジョン・ケリー・ドーマーはもっと簡潔で、運転手を務めたこと、待機してセイヤーズ家に近づく人間がいないか見張ったが異常なしだったこと、と書いただけだった。
彼は帰途に立ち寄った店でロブスターのバター焼きに舌鼓を打ったのだが、これは書きたくても書けなかった。上司に奢ってもらったからだ。
 ポールの報告書は必然的に詳細だった。ローガン・ハイネ局長にライサンダー・セイヤーズの現状をきちんと報告しなければならないからだ。証明書類に署名してもらったのだから。序でに往路で立ち寄った支局で受け取ったライサンダーとポーレット・ゴダートの血液サンプルと胎児検査の検査表も提出した。

「これで見る限りは、普通の夫婦と普通の胎児だな。」

とハイネ局長が評価した。

「ええ、問題はありません。後はゴダートが定期健診に通って来る時に胎児の細胞を分析出来るサンプルを手に入れるだけです。」

 局長は子宮内のエコー写真を眺め、ポールに視線を移した。

「胎児を傷つけてはいかん。出産でドームに母親が来るまで待つ。執政官達もそう言うはずだ。」
「執政官達には報告済みですか?」
「コロニー人達は視察団の世話で疲れたはずだから、まだ何も言っておらん。明日の朝食の時に、ケンウッドにこっそり教える。」

 そして、ちょっと苦笑いした。

「君は嬉しくないのか、レイン? 祖父さんになるんだぞ!」