2017年2月2日木曜日

大嵐 2

  ダリル・セイヤーズ・ドーマーはオフィスでいつもの仕事をしていたが、落ち着かなかった。息子の消息を知ることが出来て嬉しいのだが、会いに行けないのが悔しい。結婚を祝ってやることも、市民権を獲得したことを一緒に喜んでやることも出来ない。せめて画像通信で会話が出来れば良いのだが、息子のアドレスを教えてもらっていない。端末に電話も掛かってこない。
 父親の座を認めてもらえたポール・レイン・ドーマーの方は余裕で、業務に勤しんでいた。だからケンウッド長官から呼び出しを受けて中央研究所に行く時も、ダリルの前に書類をどっさり置いて昼迄に片付けておくようにと言いつけた。
 長官室にはハイネ局長とラナ・ゴーン副長官が居た。ライサンダーの件だなとすぐ見当がついた。
 長官に椅子を勧められ、座ると、ポールは自身から切り出した。

「ライサンダー・セイヤーズの件で何かありましたか?」
「そのことだが・・・」

 長官は胎児認知届け証明を眺めた。

「君の孫は女の子だね?」

 ポールはそうだっけ?と言う表情をして、上司達を呆れさせた。ラナ・ゴーンが尋ねた。

「胎児の性別を確認していなかったのですか、レイン?」
「すみません、男だとばかり思い込んでいました。」
「無理もない。男しか産まれない世界なのだから。」

 ケンウッドが肩をすくめた。ハイネ局長が長官をチラリと見た。早く会議を終わってくれないかなとその目が言っていた。忙しいのだから・・・。
 長官が咳払いして用件に入った。

「ドームの外で自然な交わりで産まれる最初の女の子だ。放任しておく訳にはいかない。」
「保護しろと?」
「いや、監視したまえ。当人達には気づかれない様に見守る態勢を取って欲しい。」

 ポールは直属の上司である局長を見た。

「人員を割けと言うことですか?」
「セント・アイブスで使った部下を今度はニューポートランドに派遣してはどうかな?」

 囮捜査で使った部下と言う意味だ。ロイ・ヒギンズは今週で去るから、ジョン・ケリー・ドーマーに巡回させよと局長は暗に提案している。ポールはポートランド支局を担当している第4チームのメンバーを頭に思い浮かべてみた。誰か1人をケリーと交換するべきか、それともケリー単独で動かすか・・・。

「シフトを考えてみます。」
「早い内に頼む。親も周辺の人間も誰1人として重大さをわかっていないだろうが・・・」