ライサンダーは夕食時に、2人の父親にケンウッド長官と図書館で出遭ったことを告げたが、会話の後半は省略した。彼自身がよく理解出来なかったからだ。
「おまえは普通の人間なんだな?」
とポール・レイン・ドーマーが確認した。ライサンダーは大きく頷いた。
「うん、長官がそう仰った。俺、怪我の恢復が普通の人より早いらしいけど、それは問題ないってお医者も言ったし。」
「つまり、おまえは進化型1級遺伝子を持っていない訳だ。」
ポールは隣に座っているダリル・セイヤーズ・ドーマーを見た。ダリルがちょっと可笑しそうに言った。
「この子が機械の構造を理解しないので、頭が悪いんじゃないかと心配したことがあったが、要するに、私の方がおかしかった訳だな。」
「君は何でもかんでもおかしいのさ。」
とポール。ダリルは怒ったふりをして彼の皿から肉を一切れ奪った。
ポールが予定の確認を始めた。
「明後日はライサンダーと俺とで出かけて、午後にポートランドでアメリア・ドッティと落ち合って警察へ行く。ポーレットを引き取って、アメリアがその日の夜の俺達の宿泊先などを用意してくれているから、ポートランドで一泊だ。通夜もアメリアが手配した。
翌日、ポートランドの宗教施設で葬儀を行う。ポーレットの両親が来る予定になっているから、ライサンダーは会葬者への挨拶を考えておくように。」
「はい。」
「葬儀が終わったら、ライサンダーは元の生活に戻ること。塒の確保は自分でしろよ。」
「わかってる、子供じゃないから。」
「勤務シフトは職場で相談しろ。決まったら直ぐに連絡をくれ。俺でもダリルでもかまわないから。休日にドームに来る約束を守ること。」
「うん、わかった。」
外に出られないダリルは、ポールとライサンダーの打ち合わせを黙って聞いていた。彼もポーレットにお別れを言いたかったが、それは許されないのだ。
「アメリアはどこまで私達のことを知ってしまったのだ?」
「恐らく全部だ。」
「全部?」
ダリルは絶句した。大統領が全部を知らされていることは知っていた。為政者の義務としてドームで行われている業務の事実と意味を教えられるのだが、家族の秘密は母親から教えられたのだ。大統領の妹でポールの取り替え子フランシス・フラネリーは聡明で、母と兄の会話から子供時代から家族の秘密を察していた。ポールは彼女と「双子」として家族に迎えられ、従妹であるアメリアもその秘密を共有してしまった。
そこまでは、過去のフラネリー家との関わり合いでダリルも把握していた。しかしライサンダーの存在をフラネリー家がどこまで受け容れてくれるか、不安だった。ダリルの身勝手な希望で創られた「男同士の間で生まれた」クローンの子を、フラネリー家が一族として迎えてくれると期待していなかった。ポールの母アーシュラはライサンダーの存在をダリルとの接触テレパスで知ってしまい、「孫」と呼んでくれたが、それが一族のメンバーに加えると言う意味でないことは、ダリルにはわかっていた。ポールがフラネリー家の遺産相続権を放棄したのと同様、ライサンダーにもその権利はないし、フラネリー家の一族を名乗る権利もない。
アメリアが「全部知っている」と言うことは、ライサンダーが親族であると知っていると言うことだ。そして父親が2人いることも知っているのだ。それが彼女が敬愛する伯母アーシュラから伝えられたのか、ポーレットから聞かされたのか、わからない。
「女って不思議な生き物だなぁ。」
とポールが呟いた。
「理屈抜きで現実を受け容れることが出来るんだ。ポーレットはライサンダーがクローンでも、男同士の間に生まれたことも、何のこだわりもなく受け容れたのだろう? アメリアもポーレットから聞かされたことを受け容れた。ポーレットが愛した男だから、受け容れたのだ。そして、アーシュラから俺のことを聞かされて、ライサンダーが身内だと知った。身内で、友達の夫だから、援助するのは当然だと言うのだ。」
「でも・・・」
ライサンダーは父親達を見た。
「俺はフラネリー家との関係を表に出すつもりはないよ。俺はアメリアの友人の夫、それだけなんだ。」
「うん、そうだ。」
ダリルは息子の手を優しく叩いた。
「ドーマーは血縁に縛られない。だから、おまえも自由だ。」
「父さんの親族は結局不明なままなの?」
ドキリとする質問をされて、ダリルは苦笑した。
「うん、全くわからないし、知る予定もないな。」
ポールは心の中で思った。そろそろ宇宙の彼方で、あのセレブの女が妊娠したか失敗したか判明している頃だな、と。しかし、地球人には関係のない話だ。
「おまえは普通の人間なんだな?」
とポール・レイン・ドーマーが確認した。ライサンダーは大きく頷いた。
「うん、長官がそう仰った。俺、怪我の恢復が普通の人より早いらしいけど、それは問題ないってお医者も言ったし。」
「つまり、おまえは進化型1級遺伝子を持っていない訳だ。」
ポールは隣に座っているダリル・セイヤーズ・ドーマーを見た。ダリルがちょっと可笑しそうに言った。
「この子が機械の構造を理解しないので、頭が悪いんじゃないかと心配したことがあったが、要するに、私の方がおかしかった訳だな。」
「君は何でもかんでもおかしいのさ。」
とポール。ダリルは怒ったふりをして彼の皿から肉を一切れ奪った。
ポールが予定の確認を始めた。
「明後日はライサンダーと俺とで出かけて、午後にポートランドでアメリア・ドッティと落ち合って警察へ行く。ポーレットを引き取って、アメリアがその日の夜の俺達の宿泊先などを用意してくれているから、ポートランドで一泊だ。通夜もアメリアが手配した。
翌日、ポートランドの宗教施設で葬儀を行う。ポーレットの両親が来る予定になっているから、ライサンダーは会葬者への挨拶を考えておくように。」
「はい。」
「葬儀が終わったら、ライサンダーは元の生活に戻ること。塒の確保は自分でしろよ。」
「わかってる、子供じゃないから。」
「勤務シフトは職場で相談しろ。決まったら直ぐに連絡をくれ。俺でもダリルでもかまわないから。休日にドームに来る約束を守ること。」
「うん、わかった。」
外に出られないダリルは、ポールとライサンダーの打ち合わせを黙って聞いていた。彼もポーレットにお別れを言いたかったが、それは許されないのだ。
「アメリアはどこまで私達のことを知ってしまったのだ?」
「恐らく全部だ。」
「全部?」
ダリルは絶句した。大統領が全部を知らされていることは知っていた。為政者の義務としてドームで行われている業務の事実と意味を教えられるのだが、家族の秘密は母親から教えられたのだ。大統領の妹でポールの取り替え子フランシス・フラネリーは聡明で、母と兄の会話から子供時代から家族の秘密を察していた。ポールは彼女と「双子」として家族に迎えられ、従妹であるアメリアもその秘密を共有してしまった。
そこまでは、過去のフラネリー家との関わり合いでダリルも把握していた。しかしライサンダーの存在をフラネリー家がどこまで受け容れてくれるか、不安だった。ダリルの身勝手な希望で創られた「男同士の間で生まれた」クローンの子を、フラネリー家が一族として迎えてくれると期待していなかった。ポールの母アーシュラはライサンダーの存在をダリルとの接触テレパスで知ってしまい、「孫」と呼んでくれたが、それが一族のメンバーに加えると言う意味でないことは、ダリルにはわかっていた。ポールがフラネリー家の遺産相続権を放棄したのと同様、ライサンダーにもその権利はないし、フラネリー家の一族を名乗る権利もない。
アメリアが「全部知っている」と言うことは、ライサンダーが親族であると知っていると言うことだ。そして父親が2人いることも知っているのだ。それが彼女が敬愛する伯母アーシュラから伝えられたのか、ポーレットから聞かされたのか、わからない。
「女って不思議な生き物だなぁ。」
とポールが呟いた。
「理屈抜きで現実を受け容れることが出来るんだ。ポーレットはライサンダーがクローンでも、男同士の間に生まれたことも、何のこだわりもなく受け容れたのだろう? アメリアもポーレットから聞かされたことを受け容れた。ポーレットが愛した男だから、受け容れたのだ。そして、アーシュラから俺のことを聞かされて、ライサンダーが身内だと知った。身内で、友達の夫だから、援助するのは当然だと言うのだ。」
「でも・・・」
ライサンダーは父親達を見た。
「俺はフラネリー家との関係を表に出すつもりはないよ。俺はアメリアの友人の夫、それだけなんだ。」
「うん、そうだ。」
ダリルは息子の手を優しく叩いた。
「ドーマーは血縁に縛られない。だから、おまえも自由だ。」
「父さんの親族は結局不明なままなの?」
ドキリとする質問をされて、ダリルは苦笑した。
「うん、全くわからないし、知る予定もないな。」
ポールは心の中で思った。そろそろ宇宙の彼方で、あのセレブの女が妊娠したか失敗したか判明している頃だな、と。しかし、地球人には関係のない話だ。