2019年6月8日土曜日

オリジン 2 1 - 2

 総会の後は恒例のパーティーだったが、ケンウッドは苦手なので出席を辞退した。執行部の広報は彼の話を聞きたがる委員が大勢いるのだからと、引き止めようとしたが、彼は本部会場を後にした。
 同じく総会に出席していたヘンリー・パーシバルと共に、パーシバルの月の家へ行った。そこでは、料理下手ではあるが、得意料理は上手に作れるキーラ・セドウィックが息子と共に食事の支度を整えて待っていた。ケンウッドは屋内に入るなり、シュラミスの抱擁の歓迎を受けた。

「ショシャナは後半時間したらピアノのレッスンから帰って来るわ。」
「彼女は構わないから、先に飯にしよう。」

とパーシバルが言ったが、ケンウッドは待ってあげようと提案した。

「それより車中で君が言っていたドーマーの社会復帰教育の草案を聞きたいね。」

とパーシバルに言ったので、彼等はリビングで食前酒を飲みながら話を始めた。
 パーシバルはケンウッドがアメリカ・ドームで計画中の保養所を支持しながらも、その前にすることがあるだろうと言うのだった。

「ドームの中の常識と外の世界の実情はかなり違う。一般人から見ると、ドーマーは汚れのない天国から降りてきた異邦人だよ。恐らく会話をしてもズレるだろうし、騙しやすいカモに見えるだろう。だから、外の世界の実情と法律を勉強させないといけない。外での生活体験はそれからだよ。」
「実情って・・・犯罪を教えるのかい?」
「犯罪の実情を教えるのさ。ドラマだけの世界じゃないって、実感させないと、彼等は危険性を理解しない。」

 パーシバルは空港ビルの画像を端末に出した。

「ドーマー達をまずはここで働かせるんだ。交代制でね。全員の仕事があるだろう?」
「研究所助手の仕事はないぞ。」
「それは維持班幹部が考える筈だ。何もかも執政官主導でやるのは、良くない。」
「全部ドーマーにやらせろと?」
「ニコ、ドーマーは子供じゃない、立派な大人だ。」

 ドーマーを我が子の様に愛している親友に、パーシバルは注意を与えた。

「いきなり外へ放り出せと言ってるんじゃない。最初は実際にすぐに働ける者を選んで、出してやるんだ。外には一般人の労働者がいる。彼等と一緒に働かせて学ばせるんだよ。」
「良いも悪いも、外の世界の同僚が教えるってことか・・・」
「僕等の子育てと同じだ。保育園に出すのと同じなんだ。」

 すると、それまでケンウッドの隣に座って親達の会話を聞いていたシュラミスが口を挟んだ。

「それじゃ、パパもママもローガンの開拓地研修を許可しなきゃね。」
「話の腰を折るんじゃないよ、シュリー。」

 パーシバルが娘にやんわり注意した。

「まだ大学に合格もしていないのに、反対する方が可笑しいわ。」

 とシュラミス。

「あっちでママとローガンを手伝ってきなさい。」

とパーシバル。しかしシュラミスはケンウッドの腕に自分の腕を回した。

「黙ってるから、ここに居させて。」

 ケンウッドは妙に可笑しくなって理由もなく笑った。