2019年6月2日日曜日

大嵐 2 3 - 4

 宇宙での出来事の報告をアイダが終えると、ハイネは彼女の旅立の前日に起きたポーレット・ゴダート殺害事件を伝えた。この事件はドームに保護されたライサンダー・セイヤーズが落ち着くまで関係者以外教えられていなかったので、アイダは何も知らぬまま出かけたのだ。だから、ポール・レイン・ドーマーとダリル・セイヤーズ・ドーマーの息子の一家に起きた悲劇を知ると彼女は心を痛めた。

「ポーレット・ゴダートはよく覚えています。最初の赤ちゃんを養子に出さなければならなかった女性でしたね。配偶者を亡くして子供を取り上げられ、本当に気の毒でした。やっと幸せを掴んだと思った矢先に、酷い亡くなり方をしたなんて・・・」

 彼女はドームの中の注目を集めたライサンダーではなく、殺害されたゴダートの方に関心を寄せて、同情した。

「赤ちゃんはこのドームに保護されましたのね?」
「はい。ゴーン博士が育成責任者になって面倒を見ておられます。」
「そして父親のライサンダーは週2回、ドームに子供を見にやって来る・・・ケンウッド長官の温情ですね。普通、保護された胎児の親がドームに来ることはありません。」
「取り替え子の秘密を知られてしまいますから。ライサンダー・セイヤーズは全て知っていますから、許可が出たのです。否、ゴーン副長官が彼に要請したのです。母親が胎児に話しかけるのと同じ様に彼にも胎児に語りかけて欲しいと。」
「ガラス管の中の胎児に話しかけるのですか?」

 アイダはなんとなく嘘くさく感じた。

「多分、胎児への影響より、ライサンダーの精神的苦痛を緩和させる為に、ラナが考え出した策でしょう。」

 と彼女はハイネに言った。

「ライサンダー・セイヤーズは生き残ったことに罪悪感を抱いている筈です。酷い事件の生存者の多くは、死者に対して罪の意識を持ってしまうのですよ。本当は生きていることに罪などないのですけど。胎児と繋がりを持っていることをいつでも思い出させて、子供の為に生きようと思わせる狙いがあるのでしょうね。」
「成る程・・・」

 ハイネはラナ・ゴーンと言う人物がいつも相手にそれと気付かせずに心配り出来る人だと言うことを思い出し、感心した。
 アイダが遠い未来を見つめる目付きになった。

「私はライサンダーに赤ちゃんの世話の仕方を教えましょう。ダリル坊やが教えても良いのでしょうけど、男の人の世話の仕方と女の人のそれはちょっと違いますからね。」