2019年6月16日日曜日

オリジン 2 3 - 4

 昼過ぎにポール・レイン・ドーマーとパトリック・タン・ドーマーが遺伝子管理局本部に帰投した。2人はまっすぐ局長執務室に行き、直に報告を行った。本当は2時間前に空港に着いていたのだが、彼等はシェイのランチを食べたくて空港ビルで食事をした。タンは初めてシェイの料理を食べて感激した。何故彼女をドーム内の厨房に置かないのかと上司に愚痴った。
 報告は短かった。今回の任務は第3チームの仕事で、彼等は前日に帰投して既に報告を済ませている。レインとタンは尋問の手伝いに行き、レインが接触テレパスで黙秘するメーカーから子供の販売先情報を引き出しただけだ。
 ハイネ局長の関心は任務の結果報告ではなく、タンの健康が回復したことにあった。少し前迄他人の手が触れることを恐れ、ビクビクしていたタンだが、すっかり活き活きとした表情で、頬も血色が良い。彼はチャイナタウンで購入したティーバッグのお茶をお土産として秘書に渡した。局長秘書の若い方のキンスキーは昼休みで出ており、第1秘書ネピアがお土産を受け取った。

「ところで、チーフ・レイン、君の留守中に君の秘書が一騒動起こしたことを知っていますか?」

 ネピアが尋ねたので、レインは苦笑した。

「ええ、セイヤーズが俺に首を絞められては堪らないと事前に連絡してきました。」
「さっき食堂で執政官のグループと一悶着起こしかけましたが、なんとか巧く切り抜けたようです。若いドーマー達に彼は人望があるようですね。」
「彼は裏表がありませんからね。」

 普段セイヤーズを無視するか嫌味を言うかだけのネピアが褒めたので、レインは何か裏でもあるのかと内心勘ぐった。すると珍しく局長が部下の世間話に入って来た。

「相手はジェリー・パーカーだったな?」
「その様です。」
「暴露サイトに画像を載せられることを計算したかどうかはわからんが、君にばれることはわかっていたはずだな?」
「否、彼は俺の能力を知らないと思いますが。」
「しかし、セイヤーズは君に隠さないだろう。」
「はい。」
「パーカーは故意にセイヤーズにキスをしたのではないか? 君の注意を惹きたかったのでは?」
「俺の、ですか? 普段から彼とは会っていますが・・・」

 ふむ、とハイネは暫く考え込んだ。

「急ぎ君と会いたかったのだろうな。」

 レインは局長を眺めた。パーカーは何らかの目的を持ってセイヤーズにキスをしたのだろうか。どうも得心行かなかった。レインに会いたければJJに声をかければ済む。パーカーとJJは同じ部署で働いているのだから。
 一方、タンは局長秘書がお茶の支度をするのを横目で見ていた。

 ああ、時間が長すぎる・・・もうバッグを引き揚げて良いのに・・・

 彼が口出ししようかと思った時、やっとネピアがティーバッグを揚げた。かなり黒っぽい色になったお茶を彼は4箇のカップに注ぎ、一つを局長に、2つを部下達に、残りを自身の為に配った。 タンは黒くなったお茶をげっそりと見つめた。
 
「セイヤーズとパーカーはキスする前に何の話をしていたのだ?」
「それはまだセイヤーズから聞いていません。」
「夜中に庭園で会うと言うことは、2人で示し合わせて会ったのか、それとも偶然か?」
「それもわかりません。セイヤーズは直前まで息子の相手をしていたはずですが。」
「パーカーに聞いてみてくれないか?」
「パーカーにですか? セイヤーズではなく?」
「セイヤーズはキス騒動の収拾でパーカーと何を話したか忘れていると思われる。」

 ハイネ局長はジェリー・パーカーがセイヤーズにキスをしたのは目的があったからだと決め込んだ様子だった。
 レインが承知した旨を伝えた時、ハイネはカップを覗き込んだ。そして秘書を振り返った。

「お湯は残っているか? 少し足してくれないか、私には濃すぎる。」