2019年6月2日日曜日

大嵐 2 3 - 3

 アイダ・サヤカは送迎フロアで夫の出迎えを受けた。彼女と彼の仲はもうすっかり周知の事実になっており、ゲイト係も彼等がハグし合って数日ぶりの再会を喜び合うのを見て見ぬ振りをすることに慣れていた。誰もコロニー人の女性博士が地球人保護法に違反する行為をしているなどと野暮なツッコミを入れなかった。

 あのローガン・ハイネが出産管理区長のママさんを愛しているんだ。僕等が野暮なことを指摘してドーマーの神様を苦しめてはいけない。

 ハイネとアイダが仲良くフロアを出ていくのを、彼等は微笑みながら見送った。
 以前のアイダは宇宙から戻って来ると、真っ先に職場の様子を見に、出産管理区へ直行していた。しかし、ここ数年は長い回廊を歩いてアパートの自室へ向かう。職場は副区長のシンディ・ランバート博士に任せているので心配していない。ランバートへ信頼していることを示す為にも、余計な顔出しをしないのだ。それに歩きながら夫に宇宙であった出来事を語るのも楽しかった。ハイネは宇宙の政治には関心がないが、彼女が月や火星のコロニーで出会った人々の話や出来事を聞きたがった。
 アイダが真っ先に語るのは、親友のキーラ・セドウィックとのお茶や食事会のことだ。彼女達は必ず出会う。キーラは今でも昔の職場が現在どんな様子なのか知りたがるので、アイダはかつての上司に報告する。それからキーラが取り上げたドーマー達がどれだけ成長し、現在どんな風に働いているか、元気なのか、悩んでいないか、と伝える。勿論、これは聞き手のハイネも関心があった。我が子と思う若いドーマー達の、彼が知らない姿を知る機会だ。それからキーラがアイダに語ったヘンリー・パーシバルと3人の子供達の話。最近の春分祭迄ハイネは孫には無関心でパーシバルのことだけに耳を傾けていた感があったが、今回は孫に関心を向けた。やはり実物に会って興味が湧いたのだ。
 そしてアイダが驚いたことには、ハイネは彼女自身の家族の話も聞きたがった。彼女の2人の子供とその家族だ。アイダの上の娘は宇宙連邦中央政府の官僚で、夫は大学の研究者だ。留守がちの妻に代わって夫が子育てと家事をしている。家事の大半をロボットがこなしているのは、ドームのドーマーの生活と同じだった。孫達はちょっと反抗期に入りかけており、母親が留守がちなのが不満らしい。それで今回アイダは孫達との時間を多めにとって、彼等の悩みを聞いてやった。
 下の息子は農業用機械の技術開発者だ。遠い開拓地へ出張することが多いが、コロニーの自宅にいる時は在宅勤務で機械の設計をしている。外へ働きに行っている妻と子供達と楽しく暮らしているので、アイダは上の娘の子供を連れて遊びに行き、嫁と一緒に買い物に出かけたり、2組の孫と出かけたりした。
 ハイネはそんな話を聞いていたが、ふと思い出したように妻に尋ねた。

「貴女はいつ眠っていたのです? お話を伺っていましたが、貴女が眠る時間があったように思えません・・・」

 アイダが笑った。

「ちゃんと眠っていましたよ。向こうに私の家はありませんから、移動の車中やシャトルの中で。それに子供達の家でも休む時間はちゃんとありました。」

 そして彼の手を軽く叩いた。

「そう言う貴方はちゃんとお休みになられましたか?」