次の週末、と言ってもドームの住人にとっては余り関係ないが、外から来る人々の周期的訪問によって曜日を意識する事もある。
ローガン・ハイネは金曜日の午後、時間が出来たので運動施設でスカッシュをしていた。若い対戦相手がいたが、彼の成績を脅かす存在ではなく、彼が相手をしてやっていると言う雰囲気で、向こうも練習と教授してもらっていると言う意識だった。
軽く1セット試合をすると、ハイネは相手を相手と同等の腕を持つ人に譲った。彼にとっては体をほぐす程度の運動だったな、と思っていると、「こんにちは」と声をかけて来た者がいた。振り返ると、ライサンダー・セイヤーズがいた。ラケットを持っているので、スカッシュをするつもりだとわかった。ハイネが「ヤァ」と返事をすると、ライサンダーは対戦を申し込んで来た。ハイネは快く承知して、2人はプレーをした。
ライサンダーはなんとかハイネから2ポイント取ったが、結局敗れた。それでも運動して気持ち良さそうに笑顔で終了の挨拶をした。
「有り難うございました。楽しかったです。でも2点しか取れなかった・・・」
「私から2点取るなんて、なかなかの腕だぞ。最近の若い者は遊ぶだけで技術を磨こうとしないからな。」
ライサンダーが不思議そうな顔をした。若く見えるハイネが年寄りじみたことを言ったからだ。しかしハイネは気がつかなかった。
彼はドーマー達の間で少し話題になっている質問をしてみた。
「君の子供は順調かね?」
「はい。元気そのものだと副長官が言ってました。」
そしてライサンダーはふとあることを思いついた。
「副長官が、子供に声をかけるようにと言うのですが、名前がないと呼びづらいです。何か良い名前はありませんか?」
「君の子供の名前だと?」
ハイネはちょっと驚いた。胎児に名前を付けるのは早過ぎることはないが、何故俺に訊くのだ? と言う思いだ。
「君の親達と相談して付ければ良いだろう?」
「親達の意見はバラバラなんです。」
ライサンダーは白い髪の大柄の美しい男がドームの中の実力者ではないかと考えていた。先刻彼の前にハイネと対戦していたドーマーも、周囲の他のドーマー達もハイネに対して慇懃に接している。偉い人に違いない。だから、相手の名前を直接尋ねるのも気が引けているのだ。
ハイネは少し考えた。
「君の考えはないのか?」
「ミドルネームに母親の名前を付けてやろうと思っています。妻がいつでも娘のそばに居てやれるように・・・」
すると、ハイネが何かを思いついた表情になった。
「ルシアはどうかな?」
「ルシアですか?」
「ルシア・ポーレット・セイヤーズだ。」
彼はライサンダーに微笑みかけた。
「ルシアは、ダリル・セイヤーズを産んだ女性の名前だ。」
ハッとライサンダーが息を呑んだ。祖母の名前? 今迄考えた事もなかった。勿論、父親が実の親を知らないのが原因だったが。
「ルシア・ポーレット・セイヤーズ・・・ルシア・ポーレット・・・」
口の中で繰り返し、その名を呼んでみた。とても素晴らしい名前に思えた。ライサンダーはハイネに微笑み返した。
「有り難うございます! 素晴らしい名前です。」
ハイネは頷くと、「では」と呟いて、スカッシュ競技場を出て行った。
ローガン・ハイネは金曜日の午後、時間が出来たので運動施設でスカッシュをしていた。若い対戦相手がいたが、彼の成績を脅かす存在ではなく、彼が相手をしてやっていると言う雰囲気で、向こうも練習と教授してもらっていると言う意識だった。
軽く1セット試合をすると、ハイネは相手を相手と同等の腕を持つ人に譲った。彼にとっては体をほぐす程度の運動だったな、と思っていると、「こんにちは」と声をかけて来た者がいた。振り返ると、ライサンダー・セイヤーズがいた。ラケットを持っているので、スカッシュをするつもりだとわかった。ハイネが「ヤァ」と返事をすると、ライサンダーは対戦を申し込んで来た。ハイネは快く承知して、2人はプレーをした。
ライサンダーはなんとかハイネから2ポイント取ったが、結局敗れた。それでも運動して気持ち良さそうに笑顔で終了の挨拶をした。
「有り難うございました。楽しかったです。でも2点しか取れなかった・・・」
「私から2点取るなんて、なかなかの腕だぞ。最近の若い者は遊ぶだけで技術を磨こうとしないからな。」
ライサンダーが不思議そうな顔をした。若く見えるハイネが年寄りじみたことを言ったからだ。しかしハイネは気がつかなかった。
彼はドーマー達の間で少し話題になっている質問をしてみた。
「君の子供は順調かね?」
「はい。元気そのものだと副長官が言ってました。」
そしてライサンダーはふとあることを思いついた。
「副長官が、子供に声をかけるようにと言うのですが、名前がないと呼びづらいです。何か良い名前はありませんか?」
「君の子供の名前だと?」
ハイネはちょっと驚いた。胎児に名前を付けるのは早過ぎることはないが、何故俺に訊くのだ? と言う思いだ。
「君の親達と相談して付ければ良いだろう?」
「親達の意見はバラバラなんです。」
ライサンダーは白い髪の大柄の美しい男がドームの中の実力者ではないかと考えていた。先刻彼の前にハイネと対戦していたドーマーも、周囲の他のドーマー達もハイネに対して慇懃に接している。偉い人に違いない。だから、相手の名前を直接尋ねるのも気が引けているのだ。
ハイネは少し考えた。
「君の考えはないのか?」
「ミドルネームに母親の名前を付けてやろうと思っています。妻がいつでも娘のそばに居てやれるように・・・」
すると、ハイネが何かを思いついた表情になった。
「ルシアはどうかな?」
「ルシアですか?」
「ルシア・ポーレット・セイヤーズだ。」
彼はライサンダーに微笑みかけた。
「ルシアは、ダリル・セイヤーズを産んだ女性の名前だ。」
ハッとライサンダーが息を呑んだ。祖母の名前? 今迄考えた事もなかった。勿論、父親が実の親を知らないのが原因だったが。
「ルシア・ポーレット・セイヤーズ・・・ルシア・ポーレット・・・」
口の中で繰り返し、その名を呼んでみた。とても素晴らしい名前に思えた。ライサンダーはハイネに微笑み返した。
「有り難うございます! 素晴らしい名前です。」
ハイネは頷くと、「では」と呟いて、スカッシュ競技場を出て行った。