2019年6月19日水曜日

オリジン 2 3 - 8

 用件が終わるとロアルド・ゴメス少佐は職務に戻って行った。ケンウッドは食事を続け、その間、ハイネ局長は静かに座っていた。やがてケンウッドは食事を終え、友人を見た。

「私達の子供達は、私の留守中、変わりなかったかね?」

 子供達とは、勿論ドーマー達のことだ。ハイネが首を振った。

「皆んな元気ですよ。」

 そして付け足した。

「パトリック・タンが職務に復帰しました。」

 タン・ドーマーの事件はケンウッドも覚えていた。若い遺伝子管理局員の健康問題は彼の心にも引っ掛かる心配事だった。だから、職場復帰したと報告されて、思わず笑顔になった。

「そうか! 良かった。まだ若いから立ち直りも早いだろうと思っていたよ。」
「周囲が気を使い過ぎず、ほどほどに労ってやったのが良かったようです。余り過保護にすると却って神経質になる質ですからな。」

 どちらかと言えば過保護になりがちなケンウッドには少々耳が痛い。するとハイネがポケットから小さな紙包みを出して彼に差し出した。

「タンが出張土産に中国のお茶を買って来てくれました。少しですが、貴方も宜しければどうぞ。」
「おお、それは有り難い。」

 ケンウッドは包みを受け取り、そっと開いてみた。花の香りに似た甘い芳香が彼の鼻腔をくすぐった。ケンウッドはまた顔を綻ばせた。

「地球の香りだ。」

 ハイネが声を立てずに笑った。
 ケンウッドはお茶の包みを自身のポケットにしまった。そして肉親の近況を尋ねようとしない親友に、パーシバル&セドウィック夫妻と子供達の様子を語って聞かせた。ローガンとシュラミスがそれぞれ地球自然環境学部を受験する事、ショシャナが音楽の道に進むことを両親に納得させて、プロのレッスンを受けている事、等々。
 ハイネはふーんと遠い出来事を聞く目で聞いていた。実際、月にいる親族は彼にとっては地球の何処かにいる親族と同様、居てもいなくても同じなのだろう。