2019年6月15日土曜日

オリジン 2 2 - 4

 初心者らしいぎこちなさでラケットを振っていたライサンダー・セイヤーズだったが、直ぐに要領を得たらしく、上手に狙った方向へボールを打ち返し始めた。それで、ハイネは途中で声を掛け、1セットだけ手合わせした。スポーツが得意で初めての種目でも直ぐに習得してしまうライサンダーは、この年齢不詳の白髪の人物は何者だろうと思いながらも試合を楽しんだ。しかし長身のハイネが初心者に対して容赦無く打ち返す速球に付いて行くのがやっとだった。
 5ゲーム終了した時、ライサンダーは1ポイントも取っていなかった。両手を膝に置いて呼吸を整えている彼を、ハイネは余裕で眺めた。全くの初心者で彼に付いて来られた挑戦者はライサンダーが初めてだったので、彼は面白いと感じていた。

「初めてにしては上手じゃないか。」
「でも・・・1ポイントも・・・取れてないです・・・」

 ライサンダーは白髪の男を眩しそうに見上げた。コロニー人ではなさそうだ。コロニー人はこんな逞しい筋肉を持っていない。地球人だ。でもこんな人間離れした様な綺麗な人がいるのだろうか。まるで作り物の様な体だ。ポール・レイン・ドーマーは美しいが、人間らしい匂いがする。だが、この人は天使の様だ。ライサンダーはハッと気が付いた。

 きっとこのドームから一度も出たことがない人なんだ・・・

 そう言えば、彼がドームに収容されてから身の回りの世話をしてくれたドーマー達も肌が綺麗だった。日焼けを知らない、滑らかですべすべした肌だ。白人も黒人も黄色人種も、皆んな共通して赤ちゃんの様に綺麗な肌をしている。コロニー人よりも清潔そのものに見えるのだ。

 これがドーマーと呼ばれる人達なんだ・・・

 ライサンダーは相手の名前を尋ねる為に、呼吸を整えようと努力した。しかし、ハイネはその時時計を見て、職場に戻る時刻だと気が付いた。彼は若者を振り返った。

「私は行かねばならない。面白かった。また会えたら、お手合わせ願うよ。」

 そしてライサンダーが何か言う間も与えず、ラケットを入り口の棚に返却して部屋から出て行った。呆気ないほど素早い行動だったので、ライサンダーはただ見送るだけだった。
 一方、ハイネはロッカールームに向かって歩きながら、ライサンダー・セイヤーズがクローン特有の病的な気配を微塵も持っていないことに安堵していた。普通の人間として扱う判断に誤りはなかった。危惧されていた特殊能力もない。人並み以上に運動神経が良いだけの、普通の地球人だ。そして、素直な性格だと見て取れた。

 レインにセイヤーズ、君達は良い息子を持ったな!

 彼はそっと微笑んだ。