2019年6月9日日曜日

オリジン 2 1 - 3

 ショシャナが帰宅して、やっと夕食が始まった。子供達はもう殆ど大人だ。ケンウッドとパーシバル、キーラの会話に参加しようと3人で色々口を挟んでくる。ローガンとシュラミスは共に地球環境物理学を専門にする学部を目指しているので、ケンウッドに地球について質問を続けて、両親に話をさせまいとした。ショシャナは一人音楽の道を目指している。姉弟の会話に入っていけないので、ちょっと不満そうだ。気配りの人ケンウッドは彼女の様子に気が付いてなんとか仲間に加えてやろうとするのだが、シュラミスが許さなかった。

「ニコ小父さん、私の質問に答えて!」

 ケンウッドの注意が姉妹に向けられるのが不満だ。キーラが娘を窘めた。

「シュリー、ニコは疲れているのよ、少しは貴女が黙りなさい。」

 シュラミスが母親に抗議しようとする隙を突いて、ローガンがケンウッドに質問した。

「小父さん、ドーマー達は誰でもドームの外で暮らせる体なんですか? 局長みたいに外気を呼吸すると健康に問題が出る人は多いですか?」
「基本的には、誰でも外で暮らせるんだよ。ただ、空気中の細菌やウィルスに抵抗力をつけていないので、抗体を持たせないといけないんだ。」

 ケンウッドは少年に説明した。

「局長が抱えている問題は、抗体の欠如ではなく、肺の細胞が過去の病気の後遺症で弱っていることなのだ。だからドームの中でも、彼は激しい運動を控えている。普通のドーマー達ほど長時間は運動出来ないのだよ。彼の運動能力は素晴らしく高いから、格闘技など短時間で勝負を決められる運動は得意なのだが、水泳や長距離走は誰かが見張っていないと限度を超えて後で苦しむ結果になってしまう。まぁ、朝起きがけのジョギング程度なら問題ないのだがね。」
「困ったことに・・・」

とパーシバルが口を挟んだ。

「若いドーマーの中には、ハイネに挑戦したがる奴がいるんだ。動物の雄の本能かなぁ。年上の強いボスを倒して次世代の指導者になりたがるのは、雄の動物の常だからね。そして更に困ったことに、ハイネはその挑戦を拒まない。寧ろ喜んで受けて立つんで、ケンタロウはいつも心穏やかじゃない。」
「ケンタロウどころか、私も心配で堪らないよ。」

とケンウッド。キーラが笑った。

「その挑戦者は、クロエルちゃんじゃないの?」
「正にその通りだ。」

 へーっと子供達。クロエル・ドーマーは奇抜なファッションと軽快なトークで宇宙の若者に人気だ。

「クロエル・ドーマーって、局長に試合を挑むの?」
「ああ、水泳だろうが、柔道だろうが、レスリングだろうが、なんだって挑戦したがる困ったちゃんだ。」
「で? どっちが勝つの?」
「局長でしょ?」
「クロエルじゃない?」

 子供たちがワイワイ騒ぎ出した。ケンウッドは、ここにハイネがいれば良いのにな、とふと思った。この賑やかさが家族の団欒と言うものだ、と教えてやりたかった。