2019年6月2日日曜日

大嵐 2 3 - 1

 出産管理区長アイダ・サヤカが重力休暇で月に行っているので、ハイネ局長は大人しい。女性の影響力がこれほど大きなものかとケンウッドは今更ながらに感心してしまう。プレイボーイで名を馳せるヤマザキ・ケンタロウも歳をとったせいか、最近は一人の女性で落ち着いている。結婚はしていないが、重力休暇で火星に戻ると一緒にいるらしい。ケンウッドはまだ紹介されていないが、パーシバル・セドウィック夫妻は既に会っていると言う。
 ケンウッドはシュラミス・セドウィック・パーシバルからメールをもらった。ほぼ2日置きに送られて来る。どうも高校生に気に入られた様だ、と彼は秘書と笑い合った。シュラミスのメールの内容は日々の高校生活が中心だ。彼女は地球の気象学を選択しており、毎日地球の周回軌道を廻る人工衛星から届けられる気象データを分析する学習をしている。将来は天候をコントロールする気象制御士と言う職業に就いて、地球で働きたいと書いていた。
 地球にも気象制御士がいる。元々この惑星で生まれた職業で、現在は新規の惑星開拓に不可欠な仕事だ。
 ケンウッドはドームの壁越しに見える空を見上げた。地球では余り天候をいじることを良しとされない。一度壊して、やっと復元途上の生態系を狂わせたくないからだ。だが、農業地帯や居住地では災害を避ける為に雨雲をコントロールする。シュラミスはその仕事に就きたいと言うのだった。
 目のキラキラした元気な少女だったな、と彼女の印象を彼はそう感じた。ハイネと語り合っている姿は、祖父を信頼しきっている様だった。ハイネは外観こそ若いが、彼女と顔を寄せ合って内緒話をしている時は、正に「お祖父ちゃん」の表情で孫を見つめていた。肉親に無関心なドーマーと言うのは、嘘だ、とケンウッドは思った。ドーマー達はやはり心の奥底で母親を慕い、妻や子を持ちたいと願っているに違いない。

 ドーマーの社会復帰計画を早く進めるべきだな。

 そんな思いを強く感じたのは、ライサンダー・セイヤーズに出逢ったからだろうか。父親2人と言う特殊な誕生の仕方にも関わらず、彼は普通の人間だった。そして父親達を愛していたし、信頼していた。その我が子の感情に、あの無愛想なポール・レイン・ドーマーが一所懸命になって応えようと努力している。自然に親として振る舞えるダリル・セイヤーズと違って、子育てに関わらなかった分、レインは親としての時間をこれから作ろうと必死なのだ。ドーマーの中で、一番ドーマーらしく肉親に無関心を示したあのレインが!
 端末に、シュラミスからのメール着信が通知された。ケンウッドが開くと、少女の画像が添付されていた。空中放電実験の様子だと説明が書かれていた。そして最後に一言、

ーーニコ小父さんの、年下の女性への許容範囲は何歳まで?

と質問が添えられていた。

 どう言う主旨の質問なんだ?

 ケンウッドは真面目に考え込んでしまった。