2019年6月16日日曜日

オリジン 2 2 - 6

 金曜日の夜は、ドーマー達にバーで飲酒して騒ぐことが許されている。だがハイネはそれに参加することはなく、一人アパートに帰った。アイダ・サヤカは夜勤でいない。彼は自室に入り、軽くスコッチをストレートで2杯飲むとシャワーを浴びてベッドに入った。心地よい眠りに入りかけて間も無く、端末にメールが入った。着信音で目が覚めた。彼は腕を伸ばして端末をサイドテーブルから取り上げると、画面を見た。
 ポール・レイン・ドーマーからのメールだった。西海岸でメーカーの尋問をしている部下から応援を求められたので、2時間後に出発したいと言う要請だ。
 要請の文体だが、実際は事後承諾の既成事実だろう、とハイネは思った。レインは、局長が眠っている可能性を考えて、起こさないよう電話を避け、メールを送ってきたのだ。ハイネがメールを受け取ってすぐ許可を出すと期待していない。就寝中で気がつかないかも知れないと考えている。業務内容は尋問の援護、つまり接触テレパスで逮捕したメーカーの思考を読むことだ。危険はないので、ハイネは必ず許可してくれる、と信じている。事後承諾で許してくれる、と確信している。
 ハイネは時計を見た。真夜中だ。殆どのドーマーは酔っ払っているか、寝ている時間だ。彼は返信を入れた。

ーー許可する。

 するとすぐに折り返しメールが来た。

ーータン・ドーマーを同伴します。復帰訓練です。

 パトリック・タン・ドーマーは誘拐事件の後、精神的不安定が続いて休職中だった。最近、やっと人が多い場所に出ていけるようになったとヤマザキ・ケンタロウから報告が来たところだった。人が多いと言っても、子供時代から馴染んだドーマーばかりの世界だ。外の世界の人間と触れさせるのも必要だ。尋問だけの仕事なら、タンも平気だろうと思われた。
 ハイネは再び返信した。

ーー許可する。急がずに君のペースで行うように。
ーー了解しました。

 レインはこのメールの文面を医療区でタンの担当医師に見せるだろう。
 やっとパトリック・タンが元の元気を取り戻したか。ハイネは肩の荷が一つ降りた気分になった。そして端末をサイドテーブルに戻すと、再び心地よい眠りに戻って行った。