2019年6月11日火曜日

オリジン 2 2 - 1

 アメリカ・ドームの幹部打ち合わせ会は本来最高幹部4名によって行われることになっていた。長官、副長官、保安課長、そして遺伝子管理局長だ。しかし、いつの頃からか、保安課長は出席しなくなった。多忙だったのか、面倒臭かったのか、どこにもその理由が記録されていないので、誰もが打ち合わせ会は3人で行うものだと思いがちだった。ユリアン・リプリーが長官に就任した時、規則重視の彼は4名体制に戻そうとしたのだが、当時の保安課長に無視された。あの時期は、更迭された前任長官派の残党を整理している最中だったので、実際に保安課は忙しかったのだ。ニコラス・ケンウッドが長官に就任した時も、保安課長は先手を打って、自分が打ち合わせに出ても何も建設的な意見を言う訳でないし、長官や副長官の意思に任せると断ってきた。だから・・・
 ケンウッドが重力休暇と出張を兼ねて月へ出かけてしまったので、留守を預かるゴーン副長官が打ち合わせ会をしましょうと保安課に連絡を入れた時、ゴメス少佐は何故自分に声が掛かったのかと驚いた。ゴーンが、打ち合わせ会は本来4名で行うもので、長官が留守の間は保安課長に是非出席してもらいたいと言うと、彼は反論した。今迄だって長官は出張したし、保安課に声が掛かったことはなかった。今頃になってどうして自分に声を掛けるのか、と。思わぬ反抗に遭って、ゴーンはびっくりした。しかし保安課長と喧嘩をするつもりはなかったので、出来るだけ穏やかな口調で説明した。
 近頃執政官の中に中央の執行部に不満を抱いている人々がいると噂が立っている。原因は、女子誕生の手掛りが発見され、用済みとなった科学者は解雇されると言うデマが流れているせいだ。ケンウッドが今回の出張で雇用に関する確たる答えを執行部からもらって来る迄、保安課に警戒してもらいたいので、本日の打ち合わせには少佐の出席を強く希望する、と。
 やっと納得したゴメス少佐は、副長官執務室に足を運び、ゴーン、ハイネと共にドーム内の保安状況について話し合った。ドーム内では銃火器の使用が禁止されている。武器となるのは日用品か薬品を細工したものに限られる。或いは、コンピュータのネットワークに何か仕掛けられることだ。だから保安課は情報システムの監視を強化させて欲しい、と副長官から要請があり、ゴメス少佐はそれを承諾した。遺伝子管理局から保安課へは何も要求はなかったが、ゴーンが打ち合わせ会の終了を告げると、ハイネがゴメスを昼食に誘った。この100歳になるドーマーが自分から友人以外のコロニー人を誘うのは滅多にないことなので、少佐は驚いた。ゴーンがちょっと笑いながらハイネに声を掛けた。

「私は誘って下さらないの? 局長。」

 ハイネが「おや?」と言いたげに眉を上げた。

「格闘技の話に興味がおありですか? 副長官。」

 ゴーンは首を振った。まだ笑っていた。

「私を最初から入れてくれないおつもりね、ローガン・ハイネ。無理言いません、お2人でゆっくりお昼を召し上がって下さいな。」