土曜日、ポール・レイン・ドーマーとパトリック・タン・ドーマーは西海岸から戻らなかった。彼等に援護要請を送って来た第3チームは供述を取った容疑者を順番に警察に引き渡して行ったのだが、局員数名の抗原注射効力の時間が切れる前にドームに戻らなければならなくなった。それで後の仕事をレインとタンが引き受け、第3チームはドームに戻って来たのだ。
報告書の内容はどれも彼等が真面目に仕事をした証で、タンが病気であることを感じさせるものはどこにもなかった。タン自身の報告書も以前と変わらぬ文体だった。レインはチーフらしく部下の様子を書いていたが、異常は認められず、以前と同様平常心で仕事に励んでいますと報告した。
ハイネは安堵した。パトリック・タンが自身に自信を取り戻し、元通りになったのであれば、彼の誘拐事件に責任を感じていた同僚のジョン・ケリー・ドーマーも安心出来る筈だ。ケリーはポーレット・ゴダート殺害事件でも精神的なショックを受けていたので、心の負担の半分は軽減されるだろう。
夕刻、アイダ・サヤカが勤務を終えて食堂で彼と落ち合った。
「キーラから連絡がありましたよ。」
と彼女が開口一番に報告した。
「ニコラスは明日地球に帰って来ます。」
彼女は可笑しそうに笑った。
「とっくに会議は終わっていて、彼は今朝にでも地球に帰って来たかったそうですけど、彼が月を去るのを嫌がる人がいたらしくて・・・」
ハイネは心当たりがあった。悪戯っぽく笑って言った。
「当ててみましょうか? シュラミス・セドウイック・パーシバルでしょう?」
アイダも笑った。
「ご存知だったの? あの子はニコ小父さんが本当に好きなようですね。」
「ただ父親の様に慕っているだけならましですが・・・」
彼の言葉に、彼女が笑うのを止めた。彼を見つめて、そして言った。
「私達が口出しする問題ではないと思います。彼の為人を私達はよく知っていますもの。」
「だから心配なのですよ、サヤカ。」
ハイネはドームの天井の透明な壁の向こうにある空を見上げた。夕刻だが、まだ夏の空は明るかった。
「シュリーは真剣なのです。」
報告書の内容はどれも彼等が真面目に仕事をした証で、タンが病気であることを感じさせるものはどこにもなかった。タン自身の報告書も以前と変わらぬ文体だった。レインはチーフらしく部下の様子を書いていたが、異常は認められず、以前と同様平常心で仕事に励んでいますと報告した。
ハイネは安堵した。パトリック・タンが自身に自信を取り戻し、元通りになったのであれば、彼の誘拐事件に責任を感じていた同僚のジョン・ケリー・ドーマーも安心出来る筈だ。ケリーはポーレット・ゴダート殺害事件でも精神的なショックを受けていたので、心の負担の半分は軽減されるだろう。
夕刻、アイダ・サヤカが勤務を終えて食堂で彼と落ち合った。
「キーラから連絡がありましたよ。」
と彼女が開口一番に報告した。
「ニコラスは明日地球に帰って来ます。」
彼女は可笑しそうに笑った。
「とっくに会議は終わっていて、彼は今朝にでも地球に帰って来たかったそうですけど、彼が月を去るのを嫌がる人がいたらしくて・・・」
ハイネは心当たりがあった。悪戯っぽく笑って言った。
「当ててみましょうか? シュラミス・セドウイック・パーシバルでしょう?」
アイダも笑った。
「ご存知だったの? あの子はニコ小父さんが本当に好きなようですね。」
「ただ父親の様に慕っているだけならましですが・・・」
彼の言葉に、彼女が笑うのを止めた。彼を見つめて、そして言った。
「私達が口出しする問題ではないと思います。彼の為人を私達はよく知っていますもの。」
「だから心配なのですよ、サヤカ。」
ハイネはドームの天井の透明な壁の向こうにある空を見上げた。夕刻だが、まだ夏の空は明るかった。
「シュリーは真剣なのです。」