2019年7月7日日曜日

奮闘 2 1 - 3

 支局長との連絡のやりとりは秘書の仕事だったから、ネピア・ドーマーはトーマス・クーパー元ドーマーが画面に現れた時、重要な問題が起きているとは予想しなかった。クーパーが局長と直接話したいと希望した時も、局長は長官の所に行っていて留守だ、と冷淡に答えた。
 クーパーは諦めた様子で、ネピアに要件を伝えた。

「セント・アイブス出張所のリュック・ニュカネンからの緊急連絡を伝えます。ダリル・セイヤーズ・ドーマーと彼が同伴しているドームの研究員ジェリー・パーカーが交通事故に遭いました。」

 ネピアは暫く黙っていた。「交通事故」と言う言葉の意味を考えなければならない程、ドーマーにとって馴染みのない言葉だったのだ。クーパーはネピアが外勤局員だった時代を知っている年代だ。だから説明は不要と思ったが、相手の沈黙が予想以上に長かったので、言葉を足した。

「ニュカネンから詳細な報告が後で入る筈ですが、概要を申せば、セイヤーズとパーカーが乗車したタクシーが大型車と衝突したそうです。両名は救助され、現在病院で治療中です。」

 やっとネピアは頭を働かせた。どう言うことが起きたのか、想像出来るようになったのだ。彼はクーパーに尋ねた。

「両名の傷は深いのか?」
「ニュカネンは命に別状はないと言っていますが、彼等が自力歩行可能なのか否か、そこまではまだ何も報告がありません。」

 ネピアは何か忘れている気がした。セイヤーズとパーカーが乗ったタクシーが事故に遭い、2人は負傷した。今回外出したのは、2人だけだったか?
 ネピアは画面の中のクーパーに厳しい顔で尋ねた。

「もう一人はどうした? 保安課員が1名、負傷した2名と行動を共にしていた筈だが?」
「保安課員アキ・サルバトーレに関して、ニュカネンは何も言っていません。彼は保安課員の存在を知っていますので、サルバトーレの現状に言及しないことを考えますと、サルバトーレは無事なのでしょう。」

 事情が明確ではないので、ネピアはイラっとした。局長が留守の時に限って、重大事件発生ではないか。彼はクーパーを相手にしても埒が明かないと判断した。

「ニュカネンに可能な限り早く報告書を提出するよう、伝えて欲しい。こちらも早く対応を考えねばならないからな。」
「承知しました。」

と答えつつ、トーマス・クーパーは早く局長が部屋に戻れば良いのだが、と淡い期待を抱いた。それとも・・・

 ジェレミー・セルシウスに直接連絡してみようか?