2019年7月14日日曜日

奮闘 2 2 - 4

 真夏のドームは、冷房に電力を大量に消費するので、外の太陽光発電パネルを増やす。パネルの反射光がドームに入らないよう、外壁が光を跳ね返すので、内部の人間は野原が無粋な板に覆われたな、と思うだけだが。
 ジェリー・パーカーは体調が回復すると、午後の休憩時間に壁に出かけた。昼寝をしたかったし、会いたい人もいた。
 遺伝子管理局のローガン・ハイネ・ドーマーは彼の期待通り、壁のベッドでうたた寝をしていた。パーカーは邪魔をしないように少し離れた位置に昼寝場所を取り、半時間ばかり眠った。
 やがて、ハイネが両腕を伸ばし、ウンと声を上げて伸びをした。パーカーもその声で目覚めた。局長が滑り降りるのが視野の隅に入り、彼も慌てて降りた。

「こんにちは」

 声を掛けると、ハイネが振り返った。ちょっと目を細めて彼を見た。

「やぁ、久し振りだな。」
「そうですね。」
 
 パーカーは言いたかったことを急いで頭の中で整理して口に出した。

「この前は折角俺の希望を聞き届けて下さったのに、騒ぎを起こして申し訳ありませんでした。セイヤーズにも怪我をさせちまって、ケンウッドに叱られました。」
「あんなのは怪我の内にはいらん。」

 ハイネがクスッと笑った。

「セイヤーズは事故の後、無断で行動した。君の希望を逆に利用したのだ。」
「そう言ってもらえると、気が楽です。」
「ジェシー・ガーが警察に捕まる前に死亡したのは残念だったな。恐らくあの男はビューフォードの犯罪をいくらでも喋っただろうに。」
「すみません・・・」

 パーカーは相手の視線を受け止めるのが辛くなり、目を伏せた。あの瞬間理性を失ってしまったのは事実だ。

「人間だからな。」

とハイネが呟いた。

「どんなに歳を重ねても制御出来ない感情ってものは、誰にでもあるさ。」

 彼等は庭園を抜ける道を歩き始めた。

「だが、これで君の気は収まったのかな?」
「ええ。」

 パーカーは微笑んで見せようと努力した。このドームの人々は本当に彼に対して優しい。だから彼もその想いに応えなければと思った。

「博士に直接手を下した男が死んで、何だか俺も気が抜けた気分です。」
「気が抜けたら、早く歳をとるぞ。」
「え?」

  ハイネ局長が片眼を瞑って見せた。

「君に関心を寄せている女性がいるのだが、気が付いていないのかね?」
「俺に関心を?」

 パーカーは訝しげに眉を寄せた。そんな奇特な女性がいるのか? 彼が知っている女性達はクローン製造部の人達だけだ。副長官とJJは相手がいるから違う。ではコロニー人か? 彼とよく口を利く女性と言えば・・・
 パーカーは思いついた人の名前を口に出してみた。

「メイ・カーティス博士?」

 ハイネが微笑んだので、彼はびっくりした。

「そんな・・・あんな綺麗な人がこの俺を?」