2019年7月10日水曜日

奮闘 2 1 - 7

 マザーコンピューターのデータ書き換えに必要な地球側の認証作業は開始から14時間後にやっと終了した。月の地球人類復活委員会本部から、終了の連絡が来た時、南北アメリカ大陸ドームの最高幹部4名は疲労でぐったりしていた。ケンウッドとゴーンは高齢のハイネを気遣ったが、ハイネの方は男性らしく女性のゴーンに心を配った。

「副長官、狭い空間にむさ苦しい男ばかりの同輩でさぞや息苦しい思いをなさったでしょうな。」

 ハイネの言葉にケンウッドも部下が女性であることを思い出した。小部屋のドアを開け、彼女に手で出るよう合図した。

「お疲れ様、副長官。先ずは貴女から出てください。今日は打ち合わせ会を休みます。4名共に明日の昼迄休業としますから。ゆっくり休んで下さい。」

 ゴーンは微笑んだ。休むと言っても、この長官は働くだろう、とそんな予感がしたのだ。しかし彼女は素直に頷いた。

「わかりました。では皆さん、お疲れ様でした。」

 小部屋から長官執務室に入ると、2人の長官秘書が仕事をしていた。ジャクリーン・スメアもチャーリー・チャンも4名の最高幹部が何をしていたのか承知だったが、黙ってゴーン副長官に会釈して、預かっていた端末や所持品を返却した。ゴーンはその場で彼女の持ち物を確認して、笑顔で秘書達に頷いて見せた。そして長官執務室を出て行った。
 ケンウッドはゴメス保安課長に声を掛けた。

「少佐、お疲れ様でした。貴方の勤務シフトでは、既に30時間働き通しになっています。早く休んで下さい。」

 ゴメス課長は厳つい顔に優しい笑みを浮かべた。

「特殊部隊の隊員には慣れっこです。それに認証作業の合間に少しずつ寝ていましたから。」

 ケンウッドも彼が短い仮眠を何度か取っているのを目撃していた。ゴメスは立ったままで、或いは椅子に座って目を閉じていた。あの程度の休息で十分に休めたとは信じられなかった。しかし、ケンウッドは笑顔で言った。

「体力を温存する術を保安課だけ出なく、ジムでドーマー達に教えてやって下さい。」
「戦闘術だけでなく・・・ですな?」

 ゴメスは照れ笑いした。過保護に育てられたドーマー達に、これからは外の世界の厳しさを教えて行かねばならない。ゴメスはこの瞬間、新しい己の役割を悟った気分になった。科学者達には出来ない仕事だ。彼は新しい希望を得た気持ちで長官執務室を後にした。
 ケンウッドは小部屋を振り返った。ハイネが引き篭もり装備の後片付けをチャーリー・チャンのロボットに指図していた。携帯トイレや寝具、食料の後片付けだ。チャンが他人のロボットに勝手に指図する老ドーマーを苦笑しながら見ていた。ロボットに命令を下すコマンドをハイネに教えた記憶がないのだ。