2019年7月20日土曜日

家路 2 2 - 1

 近頃のドームの中の話題は、西ユーラシア・ドームから地球人類復活委員会に提出された嘆願書だった。西ユーラシア・ドームでは、コロニー人女性の執政官とドーマーのカップルが5組もいて、同棲を始めた。それは地球人保護法違反だろうと指摘する者が現れ、ドーマー達が恋愛の自由を権利として主張したのだ。彼等は署名活動を始め、ドーム内の人口の8割が署名した。コロニー人が地球人に素手で触れるのが違反だと言うのはおかしい。そもそもコロニー人が地球人に対して性犯罪を行うことを防ぐための法律なのに、拡大解釈されて、地球人とコロニー人の間に溝を作ってしまったのだ。
 しかも地球人と結婚するコロニー人がコロニーでの権利を放棄しなければならないこと、地球に帰化しなければならないこと、宇宙へ出る権利も失うこと、など理不尽なことばかりの法律だ。地球人もコロニーの情報を得ることを許されない。まるで宇宙の孤島、隔離された世界だ。
 西ユーラシアの要求は、それらの法律を廃止し、地球人も宇宙連邦の住民と同じ権利を持つ人類であることを認めよと言うものだった。
 南北アメリカ・ドームでは、その嘆願書の対象は、ドーマーだけでなく外の地球人にも拡げるべきだと言う意見が出てきた。
 そうなると、データ書き換えの事実をドーマーや地球人全体に知られることになる。

「今更と言う気がするな。」

とヤマザキ・ケンタロウが言った。

「外の地球人は観光や貿易で訪れるコロニー人から宇宙の情報を得ている。訪問者が地球人にコロニーの情報を伝えることを取り締まるのは不可能だ。コロニーが思っているより、地球人は事実を知っているさ。」

 ヤマザキとケンウッド、そして久しぶりのヘンリー・パーシバル、彼等はバーにいた。
パーシバルも頷いた。

「僕は回診で地球上を巡回しているが、結構地球人達は真実を知っているんだ。女性達は自分がクローンだと承知しているし、男達も何故妻を得るのに当局の許可が要るのかわかっている。知っているから、メーカーって言う商売が成り立っているのさ。」
「そうなのか?」

 ケンウッドは外の世界の社会事情に疎い自身が情けなく思えた。

「しかし、よく秩序が守られているものだね。もっと荒れる筈だと宇宙では考えられているのだが・・・」
「宇宙の連中は地球人を野蛮人だと見下しているからなぁ。」
「地球人を閉じ込めて文明の進歩を止めたのは自分達のくせに。」
「地球人は女性が誕生しない理由が解明される迄はコロニーの援助に頼らなければならないからね、コロニーに従順なふりをしているだけさ。」

 ケンウッドはグラスの中の氷を見つめた。

「ドーマーを社会復帰させるプログラムを急がなきゃなぁ・・・」