2019年7月8日月曜日

奮闘 2 1 - 6

 通話を終えたネピア・ドーマーは先輩セルシウスの顔を見た。セルシウス・ドーマーはセイヤーズのセイヤーズらしい言葉に、腹を立てるどころか寧ろ微笑ましく感じていた。だからしかめっ面したネピアに言った。

「あの男は能天気で破茶滅茶な面もあるが、誠実で行動力があるし、機転が利く。それは君も認めているんじゃないのか?」
「私がセイヤーズを認めているですって?」

 ネピアは傷ついたフリをしたが、セルシウスの指摘が図星だったので内心狼狽していた。

「君には部下に命令する権限がある。局長ご不在の時は、君が遺伝子管理局の采配を振らねばならない。君はセイヤーズに即刻帰還を命じることも出来た筈だ。しかし、彼の好きなようにやらせようと思ったのではないかね?」

 ネピアは微かに頬を赤らめた。

「私は、あの男の我儘に呆れかえって物を言えなかっただけです。それに大切な遺伝子保有者ジェリー・パーカーと優秀な保安課員は帰らせると彼は断言しました。」

 彼は先輩の言葉を認めた。

「ええ、セイヤーズは誠実です。やると言えばやります。パーカーとサルバトーレは必ず夜が明けたら戻ってきます。」

 そして汗を拭うフリをした。

「もしセイヤーズが任務に失敗したら、私が責任を取ります。局長には傷をつけません。」
「局長はそんなことをお望みではないさ。」

 セルシウスは、親の心子知らず、と言う古い東洋の諺を思い出した。ハイネはネピアが業務成績にこだわらず、もっと大胆に才能を発揮させれば良いのに、と常々セルシウスやペルラにこぼしていた。

 最終責任者は俺なんだから、アイツはもっと自由な発想で仕事をすれば良いんだよ。

 しかし、セルシウスは上司の言葉を後輩に教えてやるつもりはなかった。ネピア・ドーマー自身がハイネの胸の内を悟って自身の考えで行動していけるようにならねば、意味がないのだ。

「局長は長官と徹夜で仕事をなさっているのだろうか。」

とセルシウスは呟き、ネピアを振り返った。

「私はもう帰る。君も帰って休め。」


 ネピアは首を振った。

「いえ、私はここに泊まります。もしセント・アイブスでまた何か起きると困りますから。多少なりと私がアドバイスを与えてやらないとね・・・」

 セルシウスは微笑した。ネピアは、嫌っていてもセイヤーズが心配なのだ。
 セルシウスは頷くと、おやすみ、と言い置いて局長執務室から出て行った。