2019年7月13日土曜日

奮闘 2 2 - 1

 昼食は普段より早い時間だったので、混雑を避けて中央研究所の食堂で摂った。食べながらケンウッドはハイネに相談した。ドーマーの採用を中止する時期は何時にすれば良いかと言う相談だ。中止時期について、月の本部は各ドームの裁量に任せると言ってきた。ドーマーは労働者だから、それぞれのドームの労働力の問題だ。ハイネは少し考えてから、答えた。

「遺伝子管理局は現在予定している候補生で採用を止めても構いません。将来の外勤の局員は支局で一般人を雇用しても差し支えないと思います。」

 過去の遺伝子管理局の人間が聞いたら腰を抜かしそうな案だ。しかし、ケンウッドはハイネらしい意見だと思った。他人より長い時間を生きるドーマーは、ドームの未来を長い目で見ることが出来るのだ。

「維持班の採用は、ターナー総代と相談なさった方がよろしいでしょう。特に出産管理区とクローン製造部は外からの雇用者を入れることが出来ませんから、人員補充はまだ当分必要です。」
「うん、そうだね。」

 ケンウッドはガラス壁の向こうの出産管理区の妊産婦達を眺めた。あの女性達が全員地球人になるのは何時の頃だろうか。
 ハイネの端末にメールが着信した。失礼しますと断って、ハイネは画面を覗いた。そして顔を上げて報告した。

「ジェリー・パーカーがドーム空港に到着しました。消毒を終えたら、直接医療区へ搬送します。」

 ケンウッドはホッとした。貴重な地球人のオリジナルが帰って来た。

「彼の怪我は酷いのかね?」
「怪我の殆どが打撲傷です。自力歩行は可能ですが、かなり辛いらしいので、車椅子で移動させます。治療は医師達にお任せします。」

 人任せの言葉に、ケンウッドはちょっと引っかかったので、尋ねた。

「パーカーを外に出した理由である、ラムゼイ殺害実行犯の確認についての調書は取らないのかね?」
「私がですか?」

 逆にハイネが驚いたので、ケンウッドも驚いた。ハイネが何を今更と言いたげな顔をした。

「今回の外での捜査活動はセイヤーズとニュカネンが主導しています。パーカーは捜査員ではありません。彼は報告書を出す義務がありませんし、私の部下でもありません。」
「だが、彼を外に出したのは君だろう?」
「彼が外に出たがっていたからですよ。気分転換と気持ちの整理をさせたのです。捜査の詳細はセイヤーズが書いています。ニュカネンも報告書を送って来ました。十分です。」

 ハイネは端末をポケットにしまった。

「私は明日の昼迄休暇を取ります。留守の間のことは、長官が先程ネピア・ドーマーに言い聞かせて下さったので、部下に全て任せますよ。長官もお休み下さい。」

 明日の昼迄休めと言ったのは、外でもないケンウッド自身だった。彼は頷いた。

「わかった。お互いゆっくり休もう。では、明日の昼前の打ち合わせ会で業務再開だ。」