2019年7月7日日曜日

奮闘 2 1 - 4

  ジェレミー・セルシウスは局長第一秘書を引退して既に10年以上経つと言うのに、彼に外の世界で起きた事故の報告をしてきたトーマス・クーパー・ローズタウン支局長に、思わず苦言を呈した。

「君は、ネピアを秘書にした局長と、ネピアを後継に選んだペルラ・ドーマーと私の顔を潰す気か?」
「とんでもありません!」

 クーパーは慌てた。

「ただ、局長がお留守で第一秘書の判断を仰ごうとしたにも関わらず、ネピア・ドーマーが何も指示をくれなかったものですから・・・」
「緊急の指示を必要とするのかね?」

 セルシウス・ドーマーはアパートで妻と寛いでいたところを邪魔されて不機嫌だった。事故に遭った2人の人物が地球にとって重要な男達であることは承知している。しかし、命に別状がないのだから、焦ることはないだろう、と彼は思った。本当に深刻な事態であれば、クーパーではなく、負傷した2名と行動を共にしている保安課員から連絡が入った筈だ。しかし、アキ・サルバトーレは連絡をよこさなかった。彼等を直接世話しているセント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウン出張所の所長リュック・ニュカネンからもまだ報告が来ていないのだ。
 強面に反して優しい性格のセルシウスは、あまり支局長を苛めたくなかったので、皮肉を言いたい気持ちを自制した。

「君が事故に遭った2名の重要性を理解していることは十分伝わった。ネピアも鈍い訳ではない。今対策を考えているのだ。君は通常の業務をこなし、連中に大きな変化があれば連絡してくれ。私ではなく、ネピアに、だ。」
「わかりました。」

 クーパーは渋々納得して通話を終わらせた。
 セルシウス・ドーマーは、自身の端末に残されたネピア・ドーマーからの応援要請のメールを眺めた。時刻は事故報告よりずっと早い時間だ。

「本部へ行ってくる。」

と彼は妻に告げた。

「どうもネピアの奴は急激な変化に弱いらしい・・・」