2019年7月2日火曜日

オリジン 2 4 - 10

 航空班からの苦情の電話を終えて間も無く、また電話が掛かってきた。ネピアが取り次ぎ、しかめっ面で局長に告げた。

「輸送班からです。」

 輸送班は、ドームの外で航空機を飛ばす航空班とドーム内で物資の運搬を担当する運送班の総括部門だ。航空班の苦情の件かと思いながらハイネが出ると、違った。

「局長、運送班の反重力ボートに、遺伝子管理局の職員が乗っかってゲートに向かったと言う報告が入っていますが?」
「反重力ボートに局員が乗った?」
「当該運送班員を特定して質問したところ、局員のレイン・ドーマーに呼ばれて緊急事態と言うことで、3名を乗せて走ったと言うことです。」

 反重力ボートは荷物専用の運搬車両で、人が乗ることは許可されていない。コロニー人すら乗れないのだ。乗せて良いのは、治療を一刻も早く必要とされる急病人だけと限定されている。ハイネは確認した。

「レインが自ら運送班を呼んだのだな?」
「はい。運送班の記録に残っています。コピーが必要ですか?」
「うん。第2秘書宛に送ってくれないか。ボートに乗ったのは3名だな?」
「そう記録されています。目撃証言もあります。」
「わかった。知らせてくれて有難う。違反者はこちらで処分する。」

 ネピア・ドーマーとキンスキー・ドーマーは思わず顔を見合わせた。規則に忠実なポール・レイン・ドーマーがドーム内の規則を公然と破ったのだ。局長が電話を終えると、キンスキーが思わず呟いた。

「レインも子供が可愛いんですかね?」
「セイヤーズがせがんだのかもな。」

とセイヤーズに批判的なネピアが苦々しい表情で答えた。彼は局長が溜め息をついて書類業務の続きに取り掛かるのを眺めた。ネピア・ドーマーの感覚では、ハイネ局長は部下たちの失敗に対して甘いのだ。だが今回は遺伝子管理局管轄外で局員が騒ぎを起こしている。言葉で諭すだけでは足りないだろう。
 その時、またもや電話が掛かってきた。ネピアはうんざりして、キンスキーに「出ろ」と目で合図した。キンスキーは素直に電話に出たが、その表情が忽ち曇った。

「局長、ゴメス保安課長からお電話です。」

 ハイネは無言で電話の通話ボタンを押した。画面にゴメス少佐が現れた。

「ハイネ局長、ニューポートランド市警察から今通報が入ったのだが・・・」

 ハイネが先手を打った。

「ドームの静音ヘリが不適切な場所に着陸でもしましたか?」
「正にその通り!」

 ゴメスはハイネとは逆に愉快そうに喋った。

「どう言う訳か、民間倉庫会社の敷地内に降りたそうだ。航空機の着陸許可のない場所だったので、偶然目撃した警察官が驚いて市警本部に通報した。倉庫会社で違法メーカーでも見つかったのかとな!」

 ハイネは笑えなかった。倉庫会社はライサンダー・セイヤーズの職場に違いない。レインとセイヤーズは息子を職場へ送って行ったのだ。静音ヘリを車代わりに使って。
 彼はゴメス少佐に言った。

「事件性はないと市警本部に伝えて戴けませんか。局員2名がちょっとふざけてヘリを飛ばしただけだと。」
「ふざけて?」

 ゴメスはハイネの苦虫を潰した様な表情を見て、局員の暴走だな、と察した。暴走する局員は限られている。ヘリを操縦出来る局員も限られている。

「わかった。悪戯だと謝罪しておくよ。」
「申し訳ありません。」
「ハイネ局長・・・」
「はい?」
「貴方も苦労だな、才能に溢れた部下が多すぎると・・・」