2021年4月16日金曜日

狂おしき一日 La Folle journée 4

 「どうして私が招待されるのか、意味がわかりませんわ。」

 シンディ・ランバート出産管理区副区長がぼやいた。出産管理区の執政官とドーマー医師が一堂に会した会議の終盤だった。彼女と彼女の上司出産管理区区長のアイダ・サヤカは明日のケンウッド長官の結婚披露パーティーに招待されていたが、招待状を送ったのは長官ではなく、花嫁の方だった。

「そりゃ、私もアイダ博士同様月や火星に帰省する度にパーシバル&セドウィック家を訪問してますし、子供達とも旧知の仲ですけど、披露宴に呼ばれる程ではありませんよ。セドウィック博士のお式に呼ばれるのでしたら、納得出来ますけどね。」
「多分、招待状を出したのは、花嫁ではなく、セドウィック博士なのでは?」

と部下の医師が言った。

「きっと彼女はサヤカとシンディに会いたいのですよ。」

 アイダが心配そうにランバートに尋ねた。

「行きたくないの?」
「そう言う訳では・・・」

 ランバートは躊躇った。出かけると言っても、ドームから出てすぐの空港ホテルだ。ゲイトを出れば目の前にある。空港ビルの一部なのだから。もし区長・副区長両名共に出かけても、出産管理区で何かあればすぐに戻れる。それに部下達は全員優秀だ。妊産婦も目下のところ特に医療的に考慮すべき問題を抱えた人はいない。
 シンディ・ランバートは大勢の人が集まる場所があまり得意ではない。地球人類復活委員会の総会に出席したのも入会して最初の会合に出たっきりだ。ドームでも執政官会議は多忙を理由に出来るだけサボっている。
 パーティーは大好きなアイダが副区長を励ました。

「特に何かパフォーマンスをしろと言われている訳ではないでしょ? 私達は長官の友人でもあるし、でも長官は私達に何も特別なことを希望していらっしゃらないわ。シュリーも学生時代の友人達に何か頼むとしても、私達には何も要求しないわよ。だから私達はキーラと一緒にご飯を食べて、彼女とお喋りして、適当な頃合いを図って帰れば良いの。」
「シェイのお料理なんでしょう?」

と別の部下が口を挟んだ。

「羨ましいわ。彼女の味付け、優しいのよね。私、厨房班のお料理に不満がある訳じゃないけど、シェイのシチューの味が本当に好きなのよ。」

 ランバートも頷いた。

「私も彼女のお料理が大好きよ。チェリーパイなんか、夢に出てくることもあります。でも若い人が大勢来るであろう宴に、こんなオバさんが居て良いのかしら。」
「あら、そんなことを言ったら、私も行けなくなるでしょ! 貴女の方が若いのよ。」

 アイダが怒った顔をして見せたので、会議室内に笑い声が起きた。

「新郎側は私達と同年代の人たちよ。ヤマザキ博士もゴメス少佐も出席なさるのだから、遠慮することはないわ。」
「お行きなさいよ、ランバート博士。」

 キャリー・ワグナー医師が声を掛けた。

「アイダ博士は局長のお守りでお忙しいでしょうから、貴女がその分パーティーを楽しまなくっちゃ。」
「それなら、アイダ博士とセドウィック博士と私の3人で局長のお守りをしますわ。」

 すると、ドーマー医師の中から囁き声が聞こえた。

「案外、ケンウッド長官が局長の世話に明け暮れたりして・・・」

 アイダ・サヤカがプッと吹き出し、出産管理区の会議室は大爆笑となった。