2016年11月6日日曜日

対面 10

 ナショナル・イースト銀行ローズタウン支店の店長は遺伝子管理局がモスコヴィッツの貸金庫を捜査すると言った時、借り主に連絡を取ろうとした。クラウスがその手を押さえた。

「公務です。」
「令状がないじゃないか!」
「遺伝子管理局の捜査に令状は必要ありません。これは遺伝子管理法違反の捜査です。」

 そう言われると、地球人は皆納得してしまう時代だった。支店長は遺伝子管理局が来ていることを明かさずに、モスコヴィッツに来行するようにと依頼した。
貸し金庫室で問題が発生したので利用者に来て欲しいと言う偽情報で、モスコヴィッツがやって来たのは1時間後、その少し前にポールとダリルも到着した。モスコヴィッツはドーマーが3人もいるのを見て、腹を立てた。罠だと気づいたのだ。

「金庫を開けて下さい、モスコヴィッツ理事長。」

 ポールが丁寧に、しかし冷たい口調で相手の目を見つめながら依頼した。

「金庫に何があると言うんだ!」

 モスコヴィッツが怒りを声に滲ませた。

「私は弁護士を呼んだ方が良いのかな、レイン君?」
「ご自由に。ですが、その前にラムゼイの人間クローン製造法を記録した情報チップをこちらへお渡し願いたい。」

 ダリルはモスコヴィッツの額に脂汗が滲むのを見た。情報チップの存在を知ってる人間などいないはずだ。少なくともモスコヴィッツは遺伝子管理局にその存在を知られていると想像すらしていなかった。或いは知られても、ここにあるとはわからないだろうと高をくくっていた。

「ラムゼイの情報チップだって?」
「そう、ラムゼイの情報チップです。同じことを何度も言わせんで頂きたい。暗号化されているので、貴方方はまだ中身をご覧になっていない。」

 モスコヴィッツはポールからダリルに視線を移し、クラウスを見て、支店長を見た。

「リンゼイ博士の正体がメーカーだなんて知らなかったので、彼から預かった物が数点あった。そのことかな?」

 ポールが筋肉だけ使って笑った。

「そうです、そのことです。」

 モスコヴィッツは震える手で鍵を出し、支店長の鍵と共に金庫を開いた。プラスティックケースに入った小さな5箇のチップが取り出され、ポールの手に渡された。ポールはそれをクラウスに渡した。

「初めから素直に打ち明けて頂ければ良かったんですよ、理事長。どうも有り難う。」

ポールはモスコヴィッツに握手を求め、相手の手を強く握りしめた。

「もう預かり物はありませんね?」
「ないよ。」
「ビューフォード氏も預かり物をお持ちじゃないですよね?」
「ない!」

 ポールは微笑した。敵でさえ魅了する悪魔の微笑みだ。

「もう結構です。」

 相手の手を離し、彼は仲間を振り返った。

「撤収! 今日は早く帰れるぞ。」