2016年11月13日日曜日

暗雲 3

 俺は余計なお節介をしてしまったかも知れない、とポール・レイン・ドーマーはちょっぴり反省した。ダリルは自分でラナ・ゴーンを口説き落とせるはずだ。昨夜は彼女の拒否に遭って気が動転しただけだ。思い立ったら達成出来る迄とことん挑戦する男だから、すぐ立ち直って彼女へのアタックを再開するだろう。
 正直なところ、何故ゴーンなのだ? とポールは疑問に思ったのだ。ダリルなら女性の引く手あまたなのに、よりにもよって10歳以上も年上の、コロニー人の幹部が好きになったのだから、驚いた。ラナ・ゴーンは確かに美人で魅力的な体をしている。話も有意義なことを語ってくれるし、相談事も安心して任せられる。だが、ポールは彼女が苦手だ。本当にいつも子供扱いされている感覚を与えられるからだ。彼女はドーマー達を年下だと意識している。ハイネ局長やチーフ・ドーソンの様に敬意を払う相手もいるが、多くの遺伝子管理局員は彼女の目から見れば子供なのだ。
 
 ダリルはライサンダーの父親だから、ゴーンと同じ視点で物を見られるのかも知れないな。

 ちょっとパートナーが羨ましい。
 ポールは閉じられたドアを見た。ラナ・ゴーンが「ちょっと待ってて」と言って出て行ってから10分余り経過した。そろそろ作業を始めないと薬剤の効果が薄れてくる。
彼が仕方なしに近くの本に手を伸ばした時、ドアをノックする音が聞こえた。彼は手を引っ込めた。その必要はないはずだが、なんとなく他人に見られたくないのだ。
 ドアがそーっと遠慮がちに開き、1人の女性が顔を出した。ポールはドアの方向に視線を向け、「げっ」と心の中で呟いた。思わず、彼女に声を掛けた。

「部屋を間違えているぞ。」

 彼女は部屋番号を見上げた。機械を通した声が返答した。

「ここだわ。間違いない。貴方が居るもの。」

 ポールはJJが入って来るのを見て、ナースコールのボタンを探した。しかし、ボタンを押さずにJJがドアを閉じて施錠するのを見守ってしまった。
JJはポールが座っているベッドに近づき、彼の隣に座った。ポールの緊張が一気に高まった。小娘に横に陣取られ、小娘みたいに怯えている己に気が付いて、彼はうろたえた。
立ち上がろうとして、JJに腕を掴まれた。

 一緒に

と彼女の心が言った。機械の声が説明した。

 「今日で18歳なの。大人になるの。」

そして彼女は機械を外した。