2016年11月17日木曜日

暗雲 11

「それにしても、結果が出るのは遅かったんじゃないですか?」

 ダリルが言うと、ハイネ局長はフッと鼻で笑った。

「ギル博士とナカイ博士の主張が食い違ったので、執政官同士で揉めていたんだ。ギルは君を害しようとしたのではないと強調し、ナカイを呼んだのは代理で作業をしてもらう目的だけだったと言い、ナカイはギルが君に殴られた仕返しとして君を辱めようともちかけたと言ったそうだ。倫理委員会はナカイが同様の行為を他のドーマーに対しても行っていたと言う証言を数人から得ており、ギルの主張を認めた訳だ。
 それに、周知のことだが、ギルが触りたかったのは君ではなく、レインだからな。」
「私は不思議に思うのですが、どうしてコロニー人はドーマーを触りたがるのです?」

 すると、局長は袖をまくり上げ、腕を曲げて力こぶを作って見せた。

「筋肉さ。コロニー人は地球人が重力に耐えられる筋肉を持っていることを羨ましがっている。彼等は地球がルーツなのに、この惑星の重力が辛いのだ。だから、地球人の筋肉に憧れている。ドーマーは健康維持の為に、どの部署でも必ず体力作りを義務づけて鍛えている。コロニー人の目から見ると、我々の肉体は美しいのだそうだ。触れて、その弾力性や強靱さを確かめたいのだ。」
「確かに、レインは顔を見ただけでは想像出来ないほど見事な筋肉を持っていますが、まず他人に触らせないでしょう。コロニー人だけでなくドーマーにも触らせませんよ。」
「接触テレパスだからな。しかし、若い執政官の多くはそれを知らない。レインが触らせてくれないのは、孤高を保つ為だと思い込んでいる。」

 局長はダリルを見て、片眼を瞑って見せた。

「君だって、脱げば凄いじゃないか。」
「はぁ? 貴方に言われたくありませんよ・・・」

 ハイネ局長は年齢を感じさせない見事な筋肉美を持っているのだ。ダリルはこの大先輩である上司をちょっとからかってみた。

「噂によれば、局長は『お誕生日ドーマー』を毎年20回は務められているとか?」
「ああ・・・その話には触れてくれるな。」

 少し頬を赤らめて局長は顔を横向けた。そして、わざとらしく時計に視線を向けて、「長話をしたな」と呟いた。