2016年11月10日木曜日

対面 20

 北米北部班チーフ、クリスチャン・ドーソン・ドーマーは、ダリルとポールより10歳年上だ。ポールは駆け出しの局員の頃から彼に仕事のノウハウを教わってきた。ポールにとって師匠であり敬愛する先輩だ。局長よりドーソンの方をポールは尊敬している。
 その師匠が険しい顔つきで現れたので、ポールは立ち上がって迎えた。

「おはようございます、チーフ・ドーソン・・・」
「おはよう、ポール。効力切れで休みの日にすまないが、少し話せないか?」
「かまいませんよ。」
「食事が済んでからで良いから、私のオフィスに寄ってくれ。そんなに時間は取らせないはずだ。」
「わかりました。では、半時間後で宜しいですか?」
「急がなくても良い。今日は内勤の日だから、いつでも居る。」

 ドーソンは立ち去り際、ダリルをちらりと見た。それで、ダリルは彼の用件が自身に関係することかな、と思った。心当たりと言えば、昨日の事件だが・・・あれは中央研究所の方で無礼者2人に処分を下すはずで、ドーマー側からの意見は求められないのが普通だ。
 ポールは効力切れのせいもあって食欲がないのか、食べるのを止めてしまった。気配りのクラウスが高カロリードリンクのカップを持って来て彼の前に置いた。

「効力切れの時こそ腹に何か入れないと後が辛いぞ、と部下にいつも言っているのは貴方ですよ、兄さん。」
「今は食べたくないだけだ。昼になれば元通りになるさ。」

 それでも彼はドリンクを飲んでなんとか朝食を済ませた。ダリルは自分も食事を済ませるとオフィスに行こうとした。内勤の秘書には効力切れ休暇はないのだ。すると端末にメールが入った。見ると、局長からで、局長室に来るように、と言う指示だった。

「私も局長に呼ばれたよ。また何か問題でも起こしたかなぁ?」
「君はガキの頃から問題を起こす名人じゃないか。」
「あの言われよう・・・」

 否定出来ないのが哀しい。
 2人は並んで食堂を出た。日差しが眩しいが、ドームの壁は紫外線をカットしている。
外で雨が降ってもドームの中は降らない。空が暗いだけだ。だから、ドーマーは雨が嫌いだし、僅かでも恐怖感を抱く。ダリルが中西部の砂漠地帯に近い田舎町に居を構えたのも、降水量が少なかったからだ。中米班や南米班の様に雨林がある場所には勤務したくない。
 2人は本部ビルのエレベーターで降りる階によって別れた。

 ローガン・ハイネ・ドーマーは早朝から書類作成に追われていた。ダリルが入室すると、座れ、とだけ命じた。
 ダリルはいろいろと記憶の中を検索して、何から謝ろうかと考えた。子供時代の悪戯から最近の言動まで思い出してみたが、呼び出されるようなことに思い当たらなかった。